槙田 慎二 1
俺のクラスに転校生がきた。
それが今年度、クラスの最大の事件だった。
なぜならその転校生はものすごい美人だからだ。
「新しいクラスメイトです」と担任が挨拶した直後に教室に入ってきた転校生を見て、すぐさまクラス中が混乱した。
興奮しすぎたみんなの心の声はそのまま教室内を飛び交う。
「じょ……いや、学ラン着てるから男子か!」
「色白ーい、うらやましーい」
「すげー好みなんだけど……」
「いや男だぜ!?」
そして全員が口を揃えて「可愛い」と騒いだ。
俺も密かに興奮していたひとりだけど、騒ぎの中ではわりと冷静だったほうだ。
転校生はただただ困って苦笑している。
それはそうか。可愛いと言われて嬉しい男はいない。
「シャラーップ!!」
担任の一喝でクラスは一瞬で静まり返った。
一見、細くて病弱そうな男教師。担当科目は英語でやたら発音がいい。
普段ボソボソしゃべるくせに、怒鳴るときはヤクザ並のドスを効かす。
そのギャップを目の当たりにした転校生も相当驚いているようだ。
「………えー、では、自己紹介をしてもらいましょうか」
「……香川県から来ました。……平野…梓です。よろしくお願いします」
定型文のような自己紹介はあっという間に終わり、平野はあらかじめ用意されていた窓際一番後ろの席へ座るよう指示された。って、俺の隣の席じゃないか。
じろじろ見すぎていたせいか、着席した平野は「何か?」とでも言いたげな表情で俺を見た。
「よ、よろしく」
「……よろしく」
無愛想だなあ、美人なのに勿体ない。それが俺の平野に対する第一印象だった。
***
女子みたいに……いや、そのへんの女子より可愛い男子はやはり珍しいのか、休み時間ごとに平野は囲まれた。
香川ってどこだっけ?
なにが有名だっけ?
部活は何に入るの?
平野は次々投げ掛けられる質問に、最低限で返した。
四国
うどん
まだ決めてない
ぴくりとも笑わず、仏頂面を貫く。
たまに下世話な質問をされたら、あからさまに眉をひそめた。
あんまり関わりたくないんだろうな、と思ったけれど、そうやって迷惑そうにするわりには人がいなくなると少しだけ寂しそうな顔をする。
「寂しがり屋の一匹狼」
俺は密かにそんなキャッチフレーズをつけた。
転校生に対する珍しさも引いてくると平野のまわりに人が群がることはなくなった。
口下手で無愛想なせいか、転入してから2週間経ってもこれといって仲のいい奴はいないようだ。
自分から輪に入ることもなく、話しかけられても必要以上に話さない。
そのくせどこか構ってほしそうな神妙な顔つきで窓の外を眺めてばかりいる。
わたがしのような雲が流れる青い空。
今日も儚げな一匹狼は寂しそう。
⇒
それが今年度、クラスの最大の事件だった。
なぜならその転校生はものすごい美人だからだ。
「新しいクラスメイトです」と担任が挨拶した直後に教室に入ってきた転校生を見て、すぐさまクラス中が混乱した。
興奮しすぎたみんなの心の声はそのまま教室内を飛び交う。
「じょ……いや、学ラン着てるから男子か!」
「色白ーい、うらやましーい」
「すげー好みなんだけど……」
「いや男だぜ!?」
そして全員が口を揃えて「可愛い」と騒いだ。
俺も密かに興奮していたひとりだけど、騒ぎの中ではわりと冷静だったほうだ。
転校生はただただ困って苦笑している。
それはそうか。可愛いと言われて嬉しい男はいない。
「シャラーップ!!」
担任の一喝でクラスは一瞬で静まり返った。
一見、細くて病弱そうな男教師。担当科目は英語でやたら発音がいい。
普段ボソボソしゃべるくせに、怒鳴るときはヤクザ並のドスを効かす。
そのギャップを目の当たりにした転校生も相当驚いているようだ。
「………えー、では、自己紹介をしてもらいましょうか」
「……香川県から来ました。……平野…梓です。よろしくお願いします」
定型文のような自己紹介はあっという間に終わり、平野はあらかじめ用意されていた窓際一番後ろの席へ座るよう指示された。って、俺の隣の席じゃないか。
じろじろ見すぎていたせいか、着席した平野は「何か?」とでも言いたげな表情で俺を見た。
「よ、よろしく」
「……よろしく」
無愛想だなあ、美人なのに勿体ない。それが俺の平野に対する第一印象だった。
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女子みたいに……いや、そのへんの女子より可愛い男子はやはり珍しいのか、休み時間ごとに平野は囲まれた。
香川ってどこだっけ?
なにが有名だっけ?
部活は何に入るの?
平野は次々投げ掛けられる質問に、最低限で返した。
四国
うどん
まだ決めてない
ぴくりとも笑わず、仏頂面を貫く。
たまに下世話な質問をされたら、あからさまに眉をひそめた。
あんまり関わりたくないんだろうな、と思ったけれど、そうやって迷惑そうにするわりには人がいなくなると少しだけ寂しそうな顔をする。
「寂しがり屋の一匹狼」
俺は密かにそんなキャッチフレーズをつけた。
転校生に対する珍しさも引いてくると平野のまわりに人が群がることはなくなった。
口下手で無愛想なせいか、転入してから2週間経ってもこれといって仲のいい奴はいないようだ。
自分から輪に入ることもなく、話しかけられても必要以上に話さない。
そのくせどこか構ってほしそうな神妙な顔つきで窓の外を眺めてばかりいる。
わたがしのような雲が流れる青い空。
今日も儚げな一匹狼は寂しそう。
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