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大智 5

 昇は充希と違って家の中でも外でもくっつきたがらない。けれども今日だけは、嫌だと言われても昇に触りたくて仕方がない。昇の手首をがっちり掴んでアパートの階段を上がる。

「別に逃げたりしねーから、手ぇ離せよ」

 そう言われても離さなかった。我ながら気味が悪いほどの束縛力だ。
 部屋に入ってドアが閉まるなり、キスをする。がっついているのは俺ばっかりで、戸惑っている昇の半開きの口を、何度も何度も覆った。無理やり舌でこじ開けて昇の舌を絡め取る。嫌がるかな、と思ったが、拙いながらも応えてくれた。ますます欲しくなった。
 腰を抱いてそのままベッドまで押し進め、一緒に布団の上に雪崩れこんだ。動けなくしたまま、首に吸い付く。そのまま筋に沿って舐めた。

「だ、だいち、俺、汗、かいてるし」

「かまわないよ」

 トレーナーの裾を鎖骨まで捲り、露わになった肌に触れた。胸の先端を親指でくっ、と押すと少し硬くなり、それを指の腹で撫でてやる。

「っあ」

 昇は慌てて口を手で覆う。

「恥ずかしがらなくていいじゃん」

「恥ずかしいだろ、どう考えたって」

「もっとスゴイことするのに」

 起き上がった乳首を口に含み、唾液でいっぱいにしながら腰や腹を撫でた。昇はずっと「くすぐったい」と言っていたが、熱っぽい声を出されると止めるわけにいかない。

「本当にくすぐったいだけ?」

 腹に這わせていた舌を降下させながら昇のボトムスと下着を一緒にずらしていく。飛び出したそれは、予想通り勃起している。俺はなんの躊躇いもなく咥えた。

「あっ!? ちょ、まて、それやめろ」

「嫌?」

「お前が嫌だろ」

「全然。むしろ、したい。絶対気持ち良くさせるから」

 そう言うと昇はおとなしく黙った。誰だって気持ち良くなりたいのだ。
 下生えを撫でながら、亀頭から裏筋、袋のほうまで順番に舐めていく。口の中で昇のものがぴくぴくと反応していて、感じているのだなと思うと嬉しくて仕方がなかった。最初こそ声を我慢していた昇だったが、熱を帯びてくると耐えられなくなってきたのか、次第に息を乱していった。

「ふ、……あ、あっ……はあっ」

 どくどくと脈を打っている。これだけ張り詰めていたら痛いだろう。俺は唇を窄ませて顎を上下させて、射精を促した。先端を刺激させると昇は身体を震わせて達した。

「――んんぁ……っ」

 昇が放った精は、ほぼほぼ俺の口の中に溜まっている。俺はそれを飲み込んだ。

「信じらんねー……」

 と、涙目で睨む昇。

「気持ち良かった?」

「……ん」

「続き、してもいい?」

「どうやるの?」

 確か勉強机の引き出しにローションを入れておいたはず。俺はそれを取ってきて、手の平にたっぷり落とした。

「うつ伏せになって、腰上げて」

「ケツ丸見えじゃん!」

「丸見せろって言ってんの」

「恥ずか死ぬって」

「男同士のやり方調べたんだろ? ……無理ならやめるけど」

 昇はうーん、と考えたあと、俺の首に腕を回して一緒に寝転んだ。

「横向きがいい」

 体勢的にはきついが、昇がしがみついてくれるのでよしとする。俺は手の平に出したローションを昇の後孔に塗り、入口を柔らかく刺激した。怖さもあるのか、俺の首に巻き付いている昇の腕がぎゅう、と力む。

「力、抜いて」

 耳を舐めたり甘噛みして気を紛らわせる。一瞬だけ腕が緩むも、指先を押し入れるとまた力が入る。

「怖い? 大丈夫?」

「だ、いじょぶ」

 なるべく痛がらせないように、ゆっくり、少しずつ指を進め、進んだと思ったら少し戻り、また進めたら戻る。そうやって抽挿を繰り返すうちに指一本がようやく奥に到達した。

「昇、平気?」

「なんとか……」

「止めてもいいよ」

「やめ、ない」

 昇は初めてだし、自分で後ろを弄ったことなんかないだろうから、指一本でもかなり狭い。せめてあともう一本増やしてもっと解したいところだ。こちらが躊躇していると、昇のほうから潔く言った。

「遠慮しなくていいから、早く解してくれよ。慣れりゃいいんだろ」

 なんとも男らしい。こういうところも好きなんだよな、としみじみ思った。

 お言葉に甘えてもう一本指を割り入れる。シャツ越しにでも爪が食い込むほどしがみついてきて、すごく苦しそう。俺が辛い。ただ、どうにかリラックスさせようと体中を撫でたり、キスをしてみたり、前を弄ったりしているうちに、柔らかくなってきた。

「はあ、……は、っあ、だいち、まだ?」

「まだきついと思う」

「もう、挿れていいよ」

「でも痛いかも」

「俺もお前に気持ちよくなってもらわないと困る……」

 俺は自分が気持ち良くなることより、俺が昇を気持ち良くさせているという優越感だけでけっこう満足しているのだけど、そんな風に言われたら遠慮もくそもない。性急にデニムを脱ぎ、今度こそ昇をうつ伏せにさせた。

「後ろからのほうが苦しくないから」

 緊張しているのか、昇はシーツをギュッと握る。萎縮している昇のそれを後ろから揉みほぐしてやったり、胸や腹を弄って高揚させる。もうくすぐったいとは言わなくなった。

「ん……ぁ、あ、」

 ほどよく力が抜けたところで、さっきからずっと痛くて仕方がない自分のを押し当てた。ローションを足して充分潤いを持たせてちょっとずつ、ちょっとずつ進入する。昇は苦しそうに呻ってはいるが、前を弄ってやることで多少緩和されるのか、大袈裟に痛がったりはしなかった。

「うう……っ、あ、はあっ、はあっ」

「大丈夫?」

「苦しいけど大丈夫っ」

 苦しがる昇には申し訳ないが、ものすごい締め付けで俺は気持ち良さと幸福感でいっぱいだ。大丈夫、という昇に甘えて奥を目指す。

「うあぁぁ……っ」

「のぼる、ごめん、動いてもいい?」

「……す、きにしろっ」

 決して投げやりで言っているのではない。昇なりに俺のことを想って言ったのだ。俺は昇のまっさらな背中を舐め上げ、体中に痕をつけながらゆっくり腰を動かした。傷付けないように、とは思うのに、纏わりつく粘膜の感触が良すぎてすぐに理性を奪われそうになる。きっと今の俺は獣みたいな顔をしている。うつ伏せにさせてよかった。

「あ、あっ、……だ、いち」

 シーツを握り締める昇の拳の上から手を重ねた。少しずつ動きを早める。やがて昇も苦痛より快感が上回ってきたのか、喘ぎ声が色っぽくなった。ぎこちない抽挿がスムーズになりつつある。俺はすぐにでもイキたいのを必死で我慢しながら、昇の身体を丸ごと抱き締めて肩に噛みついたり吸ったり、ありとあらゆるマーキングをする。

「昇、すきだ」

「んっ……ぅんっ、ぁあ、や、あ、あっ、」

「きもちいい?」

「……い、い……っ、も、いきそ……」

 ラストスパートはあまり記憶がない。たぶん気持ち良すぎて飛んだんだと思う。高校の時は昇とセックスするなんて絶対叶わないことだと思っていたから、それが叶っただけでいっぱいいっぱいだった。最後は昇への気遣いとかほとんど頭になくて、ただ夢中で腰を振った。好きだとか可愛いとか、冷静になったら恥ずかしくなるような甘ったるい言葉を並べて。

「だいちっ……わ、わかったっ、 わかったから! も、やだってば……あ、あぁっ、ん、い、いく、ッあぁ――……」

 俺が達したのとほぼ同時に、昇は身体をしならせて果てた。シーツの上に精液が飛ぶ。好きな子が果てる瞬間を見届けられるのって贅沢だな、なんて言ったらまた怒るだろうか……。

 ―――

「腰が死んだ」

目を覚ました昇の第一声がそれだ。ベッドから起きるのも服を着るのも辛いと言って、昇はうつ伏せのまま動こうとしない。それでは風邪を引くからと、俺は昇の体を拭いたり服を着せたり、水まで持って来たりと甲斐甲斐しく世話をやく。

「当分しない……」

「まじか……」

 真に受けてガッカリしたら、昇は噴き出して笑った。

「本気で残念がるなよ」

「昇が辛いなら無理にとは俺も言えないし」

「別に辛いなんて言ってないだろ」

「いつまで我慢したらいい?」

「だから本気にすんな! 嘘に決まってるだろ! したい時にすればいいんだよ、あほっ」

 つまり気持ち良かったということか。本当に素直じゃない奴だ。そんなところも好きだけど。

「その代わり、もうちょっと手加減してくれ」

「ごめん」

「でも充希は平気だったんだろ? 何回したら慣れる?」

 ピロートークで充希の名前を出さないでほしい。わざわざ話題に出すなんて何を考えているんだ、こいつは。

「なんでそんなに充希が気になるんだよ」

「だってさぁ……あいつのほうが大智のこと知ってるの悔しいじゃん」

 まるで子どもみたいな対抗意識だ。可愛いのを通り越していっそ呆れてしまう。

「あのさ……、俺、充希とはキスしたことないから」

「ええっ!?」

「キスはしないようにしてたんだ。されたことはあったかもしれないけど、自分からはしたことない。なんか、そこだけは昇じゃないと嫌だったんだよ」

 昇は唖然としたあと、今度はニヤニヤと薄気味悪く笑った。満足してもらえたのだろうか。

「なんだよ……気持ち悪いな」

「いやいや、俺って思ったよりも大智のこと好きなんだなって」

 きっと昇はただ思ったことを何気なく口にしただけだろう。でも俺は、そんなうっかり聞き逃しそうなほどさらりと言われた言葉に泣きそうになった。

 お前は想像もできないだろうな。俺がどんなにお前を好きか。
 小学校の頃からずっと好きだった。何度も諦めかけたけど、もう絶対に振り向いてくれることなんてないと思っていたけど、今もこうして一緒にいてくだらない話をして、好きだと言ってくれることがどんなに嬉しいか。
 今はまだ俺の方がずっと気持ちが大きいだろう。だけど、もしかしたら「好き」の量が同じになるまで、そう時間はかからないのかもしれない。

 子どものように膝を抱えて顔を隠した俺を、昇は笑いながらからかった。

「大智って、ほんとよく泣くよな」



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