剛 6
まひるが土下座をしている。
学校から帰ると離れの掃除を頼まれて、ひとりで離れに籠もっていたら突然ドアが開いて、まひるが現れたのだ。そして目が合うなり、コレだ。別れてから挨拶すらしていないのに、何故訪ねてきたのか、何より土下座される理由がまったく分からない。
「え、なんで?」
まひるは額を床につけたまま、「ごめん!」と謝った。
「いや、だから、なんで?」
いっこうに頭を上げる気配がないので、俺は持っていた段ボールを投げ捨ててまひるの腕を取った。相変わらず細い腕だ。立ち上がらせて古い畳の匂いがする部屋の中に促した。それでもまひるは頭を下に落としたまま。
「……剛の米、食べた」
「食ってくれたん? ありがとう」
「めっちゃ美味かった。米で美味しいなんて思ったことなかったけど、初めて米だけ食べて美味しい思ったん」
「海苔巻いておにぎりした?」
まひるは俯いたまま首を横に振った。
「明日、弁当に入れてもらう。朝ご飯も、剛の米食べる」
「そら良かった」
「そんでな……、思ったんやけど……勝手なことばっか言うてごめんやけど、やっぱり剛とおりたい」
「……」
「遠距離なって毎日寂しい思うくらいなら、別れたほうがいいと思ったけど、やっぱりいかんかった。近くにおっても剛と一緒じゃないと寂しい。剛がいつか違う子と付き合ったり、剛の米を俺じゃない誰かが食べるかもしれんと思ったら、めっちゃ嫌なん」
まひるは何を言ってるんだろうと、暫く頭が付いていかなかった。
まひるが俺と一緒におりたい?
寂しいやて?
俺がまひる以外の奴付き合ったら嫌やて?
殺し文句もええとこや。
「自分勝手でごめん。でも、もっかい、ゴンって呼んでもええかな……」
まひるの頭を撫でると、まひるはようやく顔を上げた。いつから泣いていたのか、頬に涙の筋をたくさん付けている。鼻を真っ赤にして目も腫れ気味で、そんなどこか不細工なところが可愛い。
「俺は自分が変わり者って自覚はあるんや。空気読めんし、気効かんし、馬鹿正直やし。俺と一緒におったら、たぶん疲れると思うんやけど、それでもかまんの?」
「それがええの。空気が読めんで気が利かんで馬鹿正直なとこが好きなん。ずっと剛の作った米が食べたい」
思わずまひるを抱きしめた。細くて薄くて小さいまひるは、力を入れたら折れそうだ。柔らかい髪の毛が頬に当たって、微かにシャンプーの匂いがする。胸を押されて少し離れたまひるが、顔を近付けてきた。小さい口が目の前まで迫って、戸惑いながら遠慮がちにキスした。鳥がつつくみたいな、一瞬だけのやつ。
「なんでそんな短いん?」
「だって……」
じりじりと後ずさる俺を、まひるが追い詰めてくる。カラーボックスに躓いて尻餅をついたら、すかさずまひるが俺の上に乗っかってキスされた。
――受け身なまひるも可愛いけど、強引でちょっと男らしいまひるもええな……。
なんて呑気にときめいてしまっている。積極的に口を開けてくるくせに舌が緊張しているのが伝わって、こっちまで緊張してくる。まさかまひるのほうから来てくれるなんて思いも寄らなかったので、ただただ驚きだったけど、ぎこちないキスを続けるうちに喜びが追いついて、俺はまひるの背中に手を回すと体を反転させて、今度は俺がまひるに被さる形になった。場所がカビ臭くて小汚い離れというのが、ちょっとムード台無しではあるけれど、それより俺の下にいるまひるが可愛すぎる。けれども欲望に任せて突っ走って、あの時の二の舞にはなりたくない。
「また止まらんくなるかもしれんけん、やめとく……」
離れようとすると、袖を掴まれた。
「かまん」
「でも今度は手だけじゃ済まんかも……」
「ええよ」
視線をずらすと、まひるのが膨らんでいるように見えた。俺の視線を追ったまひるが頬を赤らめる。
「なぁ……それ、どうにかして」
「やめて言われてもやめんけど、ええの?」
ジーンズの上から手を乗せると、やっぱり少し硬くなっていた。くっ、と握ると、まひるが「あっ」なんて声を出すもんだから、それだけで俺のも反応してしまった。まひるのジーンズを膝まで下ろすと、あとはまひるが自分から脱いだ。下半身だけ裸というのはかなりイヤラシイ光景だ。「触ってもええ?」とお伺いを立てていると、まひるは顔を隠しながら、
「いちいち聞かんでええけん、好きにしたらええやん!」
と、怒った。好きにしてもいいとお許しが出たので、遠慮なくいただく。
先端がちょっと濡れているそれを咥えたら、口の中でぴくぴく震えた。感動とか興奮は勿論あるけれど、同じものを持っている身としては「あ、こんな味なんや」と冷静に考えている自分もいる。なんとなくこの辺かなと思う部分を舌でなぞった。裏筋とか、先っぽの中心とか。
「あ……ぁ、」
「気持ちええん?」
「ん、……」
いまいち分からないので、先を咥えたまま手を動かした。閉じようとする脚の内腿を押さえ付ける。
「ぃ、やぁあっ、それっ、だめっ、止めて!」
言われたとおりに口と手を放したら、今度は涙目の色っぽい表情で恨めしそうに睨まれた。
「あ、やめたらいかんかった?」
「……痛い」
確かにガチガチになっていて痛そうだ。
「イキたい?」
「イキたいけどイキたくない。もうちょっと優しくして」
今度はそっと包んでゆっくり手の平を動かした。いつの間にか溢れているせいで、やらしい音がする。
――俺もそろそろ痛いな。
そう思ったのをまひるは察したのか、「お前も脱げよ」と言われて土埃のついたチノパンを下ろした。飛び出したものを見て、まひるはちょっと驚いたように顎を引いた。細い指が俺を握る。なんでか頭がくらくらした。向かい合ってお互いのものをシゴき合った。
キモチイイ、シンジラレナイ。目をとろんとさせて息を切らせて、俺のを握っているまひるを見ているだけで先にイキそうだった。さすがにそれは格好悪い。まひるを畳に押し倒して、カットソーをたくし上げてピンク色の胸を貪る。やり方とかどうでもいい。とりあえず吸ったし、舐めた。まひるを握っている手はどんどんスピードアップする。
「は……、ぁあ、でちゃうぅ」
「出してええで」
「なんかっ、だめな気が……するっ、あ……っ、あ、んん――……」
手の平に熱いものが溢れた。ふるふる震えながら、ちょっと眠そうなぼんやりした顔で息を乱している。
「どう?」
「きもちいぃ」
間を空けずにまひるが出したものを後ろに塗った。前に仕入れた情報によると、ココに入れるのだとか。ぎゅっと固く窄んだ蕾に指をねじ込んだ。
「わ、ぁ、うそ、」
「痛くない?」
「こわ、怖い……」
怖いと言いながらも俺の首にしがみついて抵抗する素振りは見せないので、そのまま割開くようにして進んだ。確か良くなる部分があるはずだと考えながら探っていたら、さすがに痛かったようだ。傷がついてもいけないので諦めて指を抜こうとしたら、ちょうどシコリに触れた。
「あっ」
「ここ?」
「ぁああっ、なにそれ、お腹が……っ」
「気持ちよくない?」
「きもち、い……っ、」
指を抜いて、今度はもう限界の近い自分自身を宛がった。まひるの体が一瞬で緊張して強張った。ぐっと押し込むと、まひるが喚く。
「痛いぃぃ!」
「ちょ、ごめ、ちょっと我慢して!」
「だって痛っ……」
あまりに痛がるのが可哀想になって、ゆっくり引き抜いた。正直言って俺は出したくて痛くて仕方がないのだけど、まひるに無理をさせたくない。
「ごめん、怒っとる?」
「怒ってない、痛かっただけ……」
「もう、やめとく?」
「入れるのは……無理かも……」
「うん、血ぃ出たらいかんしな」
チノパンを手に取ったら、「ゴンはどうすんの」と聞かれ、
「俺は適当に処理しとくわ」
「俺がする」
両脚のあいだに体を進めたまひるは、体を小さくして硬くなっている俺を口に含んだ。
「まっ……嫌ちゃうん、か」
「嫌ちゃうよ。俺ばっかりしてもろとるし、俺もゴンのこと気持ちよくさせたい」
――もうその言葉でイくって。
「う……、あ、まひる……ぅ」
まひるの舌の感触と温かさにぞわぞわする。不器用ながらも頑張って顎を使っている姿は本当に可愛い。感覚というより視覚の興奮で一気に寸前まで昇り、咄嗟にまひるの頭を離した。と、同時に俺も放ってしまい、まひるの顔にべっとりと付いてしまった。
「うわっ! ごめん! ぶっかけるつもりなかったんやけど!」
「……ああ、ええよ、大体分かる」
奥にある洗面台を勧めて、まひるが顔を洗っているあいだにいそいそと服を整え、正座で待った。同じく洗顔を終えて着衣したまひるは、毛先の濡れた前髪をささっと梳きながら、気恥ずかしそうにして正面に座る。離れには電気がない。とっくに日が暮れて暗くなってしまった部屋の中では、かろうじて顔が見えるくらいだ。暫の沈黙のうち、くつくつ声を出して笑い出したのはまひるだった。
「なんで笑うん?」
「だって……ふふっ、なんちゃなかったみたいに畏まっとんが、おもろくて」
「大イベントがあったけどな」
「思い出したら恥ずかし」
「可愛かったで」
「やめろよ、はずい」
両手で顔を覆った隙に、まひるを抱き入れた。
「やっぱ、まひるのこと好きなんやんか。別れたない」
「……うん、俺も」
「東京行くなって言わんけん、まひるのやりたいこと応援するし、だけん、もっぺん俺と付き合って」
「……俺、すぐ怒るし、意地っ張りやけど、かまん? 東京はやっぱり行きたい。でも田舎が嫌やからとかじゃなくて、やりたいことあるから。……帰ってくるかどうかも考えてないけど、離れとっても頑張るけん、……だけん……」
「だけん?」
「俺も好き」
赤ん坊の頃から大きかった俺。
赤ん坊の頃から小さかったまひる。
今でもギュッとしたら潰れそうだけど、俺の腹回りを包んでいる力は強い。体の大きさは違っても、たぶん気持ちの大きさは一緒。小回りを繰り返してやっと、同じところに着いた気がする。
真っ暗になった薄汚い畳の部屋で、俺たちは何回もキスをした。
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学校から帰ると離れの掃除を頼まれて、ひとりで離れに籠もっていたら突然ドアが開いて、まひるが現れたのだ。そして目が合うなり、コレだ。別れてから挨拶すらしていないのに、何故訪ねてきたのか、何より土下座される理由がまったく分からない。
「え、なんで?」
まひるは額を床につけたまま、「ごめん!」と謝った。
「いや、だから、なんで?」
いっこうに頭を上げる気配がないので、俺は持っていた段ボールを投げ捨ててまひるの腕を取った。相変わらず細い腕だ。立ち上がらせて古い畳の匂いがする部屋の中に促した。それでもまひるは頭を下に落としたまま。
「……剛の米、食べた」
「食ってくれたん? ありがとう」
「めっちゃ美味かった。米で美味しいなんて思ったことなかったけど、初めて米だけ食べて美味しい思ったん」
「海苔巻いておにぎりした?」
まひるは俯いたまま首を横に振った。
「明日、弁当に入れてもらう。朝ご飯も、剛の米食べる」
「そら良かった」
「そんでな……、思ったんやけど……勝手なことばっか言うてごめんやけど、やっぱり剛とおりたい」
「……」
「遠距離なって毎日寂しい思うくらいなら、別れたほうがいいと思ったけど、やっぱりいかんかった。近くにおっても剛と一緒じゃないと寂しい。剛がいつか違う子と付き合ったり、剛の米を俺じゃない誰かが食べるかもしれんと思ったら、めっちゃ嫌なん」
まひるは何を言ってるんだろうと、暫く頭が付いていかなかった。
まひるが俺と一緒におりたい?
寂しいやて?
俺がまひる以外の奴付き合ったら嫌やて?
殺し文句もええとこや。
「自分勝手でごめん。でも、もっかい、ゴンって呼んでもええかな……」
まひるの頭を撫でると、まひるはようやく顔を上げた。いつから泣いていたのか、頬に涙の筋をたくさん付けている。鼻を真っ赤にして目も腫れ気味で、そんなどこか不細工なところが可愛い。
「俺は自分が変わり者って自覚はあるんや。空気読めんし、気効かんし、馬鹿正直やし。俺と一緒におったら、たぶん疲れると思うんやけど、それでもかまんの?」
「それがええの。空気が読めんで気が利かんで馬鹿正直なとこが好きなん。ずっと剛の作った米が食べたい」
思わずまひるを抱きしめた。細くて薄くて小さいまひるは、力を入れたら折れそうだ。柔らかい髪の毛が頬に当たって、微かにシャンプーの匂いがする。胸を押されて少し離れたまひるが、顔を近付けてきた。小さい口が目の前まで迫って、戸惑いながら遠慮がちにキスした。鳥がつつくみたいな、一瞬だけのやつ。
「なんでそんな短いん?」
「だって……」
じりじりと後ずさる俺を、まひるが追い詰めてくる。カラーボックスに躓いて尻餅をついたら、すかさずまひるが俺の上に乗っかってキスされた。
――受け身なまひるも可愛いけど、強引でちょっと男らしいまひるもええな……。
なんて呑気にときめいてしまっている。積極的に口を開けてくるくせに舌が緊張しているのが伝わって、こっちまで緊張してくる。まさかまひるのほうから来てくれるなんて思いも寄らなかったので、ただただ驚きだったけど、ぎこちないキスを続けるうちに喜びが追いついて、俺はまひるの背中に手を回すと体を反転させて、今度は俺がまひるに被さる形になった。場所がカビ臭くて小汚い離れというのが、ちょっとムード台無しではあるけれど、それより俺の下にいるまひるが可愛すぎる。けれども欲望に任せて突っ走って、あの時の二の舞にはなりたくない。
「また止まらんくなるかもしれんけん、やめとく……」
離れようとすると、袖を掴まれた。
「かまん」
「でも今度は手だけじゃ済まんかも……」
「ええよ」
視線をずらすと、まひるのが膨らんでいるように見えた。俺の視線を追ったまひるが頬を赤らめる。
「なぁ……それ、どうにかして」
「やめて言われてもやめんけど、ええの?」
ジーンズの上から手を乗せると、やっぱり少し硬くなっていた。くっ、と握ると、まひるが「あっ」なんて声を出すもんだから、それだけで俺のも反応してしまった。まひるのジーンズを膝まで下ろすと、あとはまひるが自分から脱いだ。下半身だけ裸というのはかなりイヤラシイ光景だ。「触ってもええ?」とお伺いを立てていると、まひるは顔を隠しながら、
「いちいち聞かんでええけん、好きにしたらええやん!」
と、怒った。好きにしてもいいとお許しが出たので、遠慮なくいただく。
先端がちょっと濡れているそれを咥えたら、口の中でぴくぴく震えた。感動とか興奮は勿論あるけれど、同じものを持っている身としては「あ、こんな味なんや」と冷静に考えている自分もいる。なんとなくこの辺かなと思う部分を舌でなぞった。裏筋とか、先っぽの中心とか。
「あ……ぁ、」
「気持ちええん?」
「ん、……」
いまいち分からないので、先を咥えたまま手を動かした。閉じようとする脚の内腿を押さえ付ける。
「ぃ、やぁあっ、それっ、だめっ、止めて!」
言われたとおりに口と手を放したら、今度は涙目の色っぽい表情で恨めしそうに睨まれた。
「あ、やめたらいかんかった?」
「……痛い」
確かにガチガチになっていて痛そうだ。
「イキたい?」
「イキたいけどイキたくない。もうちょっと優しくして」
今度はそっと包んでゆっくり手の平を動かした。いつの間にか溢れているせいで、やらしい音がする。
――俺もそろそろ痛いな。
そう思ったのをまひるは察したのか、「お前も脱げよ」と言われて土埃のついたチノパンを下ろした。飛び出したものを見て、まひるはちょっと驚いたように顎を引いた。細い指が俺を握る。なんでか頭がくらくらした。向かい合ってお互いのものをシゴき合った。
キモチイイ、シンジラレナイ。目をとろんとさせて息を切らせて、俺のを握っているまひるを見ているだけで先にイキそうだった。さすがにそれは格好悪い。まひるを畳に押し倒して、カットソーをたくし上げてピンク色の胸を貪る。やり方とかどうでもいい。とりあえず吸ったし、舐めた。まひるを握っている手はどんどんスピードアップする。
「は……、ぁあ、でちゃうぅ」
「出してええで」
「なんかっ、だめな気が……するっ、あ……っ、あ、んん――……」
手の平に熱いものが溢れた。ふるふる震えながら、ちょっと眠そうなぼんやりした顔で息を乱している。
「どう?」
「きもちいぃ」
間を空けずにまひるが出したものを後ろに塗った。前に仕入れた情報によると、ココに入れるのだとか。ぎゅっと固く窄んだ蕾に指をねじ込んだ。
「わ、ぁ、うそ、」
「痛くない?」
「こわ、怖い……」
怖いと言いながらも俺の首にしがみついて抵抗する素振りは見せないので、そのまま割開くようにして進んだ。確か良くなる部分があるはずだと考えながら探っていたら、さすがに痛かったようだ。傷がついてもいけないので諦めて指を抜こうとしたら、ちょうどシコリに触れた。
「あっ」
「ここ?」
「ぁああっ、なにそれ、お腹が……っ」
「気持ちよくない?」
「きもち、い……っ、」
指を抜いて、今度はもう限界の近い自分自身を宛がった。まひるの体が一瞬で緊張して強張った。ぐっと押し込むと、まひるが喚く。
「痛いぃぃ!」
「ちょ、ごめ、ちょっと我慢して!」
「だって痛っ……」
あまりに痛がるのが可哀想になって、ゆっくり引き抜いた。正直言って俺は出したくて痛くて仕方がないのだけど、まひるに無理をさせたくない。
「ごめん、怒っとる?」
「怒ってない、痛かっただけ……」
「もう、やめとく?」
「入れるのは……無理かも……」
「うん、血ぃ出たらいかんしな」
チノパンを手に取ったら、「ゴンはどうすんの」と聞かれ、
「俺は適当に処理しとくわ」
「俺がする」
両脚のあいだに体を進めたまひるは、体を小さくして硬くなっている俺を口に含んだ。
「まっ……嫌ちゃうん、か」
「嫌ちゃうよ。俺ばっかりしてもろとるし、俺もゴンのこと気持ちよくさせたい」
――もうその言葉でイくって。
「う……、あ、まひる……ぅ」
まひるの舌の感触と温かさにぞわぞわする。不器用ながらも頑張って顎を使っている姿は本当に可愛い。感覚というより視覚の興奮で一気に寸前まで昇り、咄嗟にまひるの頭を離した。と、同時に俺も放ってしまい、まひるの顔にべっとりと付いてしまった。
「うわっ! ごめん! ぶっかけるつもりなかったんやけど!」
「……ああ、ええよ、大体分かる」
奥にある洗面台を勧めて、まひるが顔を洗っているあいだにいそいそと服を整え、正座で待った。同じく洗顔を終えて着衣したまひるは、毛先の濡れた前髪をささっと梳きながら、気恥ずかしそうにして正面に座る。離れには電気がない。とっくに日が暮れて暗くなってしまった部屋の中では、かろうじて顔が見えるくらいだ。暫の沈黙のうち、くつくつ声を出して笑い出したのはまひるだった。
「なんで笑うん?」
「だって……ふふっ、なんちゃなかったみたいに畏まっとんが、おもろくて」
「大イベントがあったけどな」
「思い出したら恥ずかし」
「可愛かったで」
「やめろよ、はずい」
両手で顔を覆った隙に、まひるを抱き入れた。
「やっぱ、まひるのこと好きなんやんか。別れたない」
「……うん、俺も」
「東京行くなって言わんけん、まひるのやりたいこと応援するし、だけん、もっぺん俺と付き合って」
「……俺、すぐ怒るし、意地っ張りやけど、かまん? 東京はやっぱり行きたい。でも田舎が嫌やからとかじゃなくて、やりたいことあるから。……帰ってくるかどうかも考えてないけど、離れとっても頑張るけん、……だけん……」
「だけん?」
「俺も好き」
赤ん坊の頃から大きかった俺。
赤ん坊の頃から小さかったまひる。
今でもギュッとしたら潰れそうだけど、俺の腹回りを包んでいる力は強い。体の大きさは違っても、たぶん気持ちの大きさは一緒。小回りを繰り返してやっと、同じところに着いた気がする。
真っ暗になった薄汚い畳の部屋で、俺たちは何回もキスをした。
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