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大智 2

 用意しておいたスウェットは昇には大きかったらしく、かなりゆったりと着崩していた。俺はそれも似合うんじゃない、とわりと本気で言ったが、昇は気に入らなかったらしく自分の背の低さを嘆いていた。別に昇は特別小さいわけじゃない。単に俺がでかいだけなのに。
 ベッドもシングルに男二人はキツすぎた。俺が床で寝るよと申し出ても、昇はけっこうだと頑なに断った。

「俺が泊まらせてもらってんだから、俺が床で寝る。毛布一枚あれば充分だから」

 欲を言えば一緒に寝たかったけど、まだそこは言わない。とはいえ、まだ冷えの残る三月。寒かったら遠慮せずこっちに来いよとは誘っておいた。
 寝床に入って電気を消してから暫く喋っていた。昇の仕事のこと、俺の大学のこと。自分の知らない環境のことを聞くのは楽しくてなかなか眠くならなかったが、だんだんと昇の声が小さくなってきたのでキリのいいところで喋るのをやめた。数分ほど静かになって、寝たかな、と床を覗き込んだら、昇はまだ目を開けていた。

「なあ、大智」

「なに?」

「実は前にここに来た時、枕の下にゴム隠してあるの見ちゃったんだ」

 ヒヤッと汗が一気に滲んだ。そういえば置き場所に困ってとりあえず枕の下に隠したことがある。いつも枕の下じゃなくて、その時たまたまだったと思う。引かれたかな、という俺の心配をよそに、昇はからかい口調で聞いてくる。

「やっぱさ、充希と使ってたんだろ? 頻繁にしてたの?」

「え、え~~~いやぁ……どうだったかな」

「週一とか?」

「……もういいじゃん、あいつの話は……そんなの聞いてどうすんだよ」

「別に俺も知りたいわけじゃないんだけどさ……」

 今度はやたら神妙になる。

「一応、俺らって付き合ってるわけじゃん。今までとあんまし変わらないけど。でもお前は充希と付き合ってる時は……まあ、色々してたんだろ。だからさぁ……なんつーか、物足りないんじゃないかなって」

 これは誘われているのだろうか。やたら心臓がドキドキしてますます眠れなくなった。それより昇が付き合っていると認識してくれていただけで嬉しかった。

「俺は誰とも付き合ったことないし……正直、その辺のことはまだ考えられないんだけど……。なんていうか……まあ、我慢してることとかあったら言えよ」

 昇なりに気にしてくれているのだろう。好きだと言ってくれたとはいえ、昇はゲイではない。男同士のあれこれなど知らないはずだ。考えられなくて当然だ。だから俺も焦りたくないし、昇がしたくないならしなくていいとも思っている。でもそんな風に昇から話を出されたらどうしても自分の都合のいいように捉えてしまう。だから俺は昇の優しさにつけ込んでしまった。

「じゃあさ……してみる?」

「えっ!?」

「いや、するって、最後までするんじゃなくて、ちょっとホラ、抜き合う、くらいの。じ、実は俺も……溜まってるし……」

 少し沈黙ができて、やっぱり言わなければよかったと猛烈に後悔した。きっと怪訝な顔をしているに違いない。けれども、予想外にも昇は提案を受け入れてくれたのだった。

「んじゃ、そっち行くわ」

 本当に分かっているのかと心配になるくらいの軽いノリで、昇が布団に入ってくる。ベッドが窮屈すぎて、でもその窮屈さが嬉しかったり。横になって向かい合うと鼻がぶつかりそうな距離に顔があって緊張してしまう。

「……男二人が一つのベッドでくっついて向かい合ってんのって、なかなか怖ぇな」

「そういうのは冷静になっちゃ駄目なんだよ。……昇、嫌じゃない?」

「嫌じゃないよ。つーか、実は床が寒かったからちょうど良かった。で、どうすんの?」

「とりあえず、キスしていい?」

 昇はちょっと目を泳がせたあと、目を閉じた。昇の肩を押して仰向けにさせ、被さる。ゆっくり顔を近付けて軽くキスした。いったん唇を離して、すぐにまた押し付ける。今度は深く。今まで唇を合わせるだけのキスしかしたことがなかった。だから俺が少し下唇を啄むだけで昇は過剰に反応して目を開ける。

「目ぇ開けられるとやりにくいんだけど」

「だって、いつまでやんの?」

「慣れるまで」

 口を開けて、と言うと少しだけ開ける。でも舌が触れると逃げようとする。苦手なのかもしれないと思い、舌を入れるのはやめた。
 キスというのは不思議なもので、触れているのは唇だけなのに脳から足先まで全身が痺れるように気持ちがいい。息遣いを間近に感じるからだろうか。俺は既に下半身が熱かった。
 怖がらせないように、恐る恐るスウェットの上から腹と腰を撫でてみる。ビクッと昇の身体が反応したが、嫌がりはしなかった。胸をさすると「くすぐったいからやめろ」と言われる。本当は服越しじゃなくて、直に触りたいのに。昇の下半身が俺の腹に当たる。硬くなっていて、昇もキスが気持ち良かったのだなと安心した。

「触ってもいい?」

「触ってるじゃん」

「違う、下」

「え、大智がやるの……?」

「嫌ならしないけど……痛くない? ソレ」

「別に嫌では……ない」

 もう一度キスをして、唇を合わせながら昇のそれを筋に沿ってさすった。

「ん……」

 僅かに腰が逃げる。けど、たぶん嫌だからではない。俺はそのまま下着の中に手を滑り込ませ、直接握った。熱くて、少し先が濡れている。先端を親指で撫でると昇は声を洩らした。

「あぅ……、だ、だいち、待っ……汚い……」

「汚くないって」

「でも、俺、ほんと最近、してないから……」

「じゃあ、尚更してやるよ」

 布団を蹴り上げて昇のスウェットパンツを下着ごとずらした。背中を丸めて隠そうとするので、背後に回って横になる。

「恥ずかしいなら、後ろからするから。昇は目を瞑ってて」

 うなじを舐めたりキスをしたりしながら、俺は後ろから手を回して昇のを握った。痛くないようにゆっくり擦り、裏筋や袋まで、感度の良さそうな場所を丁寧に触った。昇のはどんどん熱く、堅くなっていく。ふうふうと呼吸も荒くなってきた。

「はあ、あ……っ、あ……」

「きもちい?」

 耳元で聞くと昇はビクンと肩を震わせた。同時に俺の手の中に射精する。痙攣が治まるまで包んでやった。

「だ、大智、ごめん。離していいよ」

 そう言われても離せる状態じゃなかった。俺はまだ硬くなったままだからだ。白濁まみれの昇を握ったまま、片方の手で自分のを握った。

「昇、そのまま前、見てて。俺も出したい」

「えっ、あ、うん」

 おとなしく俺の腕の中に収まっている。昇の襟足に鼻を埋め、俺は自分で自分を慰めた。欲を言えば昇にしてもらいたいところだが、贅沢は言わない。昇の短くて硬い髪の毛がちくちく頬に刺さる。シャンプーの匂いに交じって汗の匂いもして、それにもまた欲情した。昇が同じベッドにいるだけで幸せすぎてすぐにイキそうだった。思い切り自分のをしごいて一気に射精する。かなりの量が出たが、なんとか昇の服は汚さずに済んだ。

「……っはー……。昇、大丈夫だった?」

「ぇあ……うん」

「下、洗う?」

「う、うん。先シャワー使ってもいい?」

「いいよ」

 昇は振り向かずにいそいそとベッドを出て浴室に駆け込んだ。興奮している時は必死だったが、賢者タイムに入るといきなり不安になる。あんなにがっついて引かれなかっただろうか、と。
実際終わってから昇は顔を合わせずさっさと洗いに行ったし、俺がシャワーをして出て来た時には既に床で眠っていた。翌朝もどこかよそよそしくて、目が合うと逸らされた。せっかくの休日なのに、昼前には帰ってしまうし。やっぱり嫌だったのかもしれない。俺は昇の優しさに甘えて強引に先を急いたことを心底後悔した。

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