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第一部 2-1

 大川さんとドーナツ屋で話しているうちに、俺の家と大川さんの家がわりと近いことを知った。もしかしたら帰りが一緒になることがあるかもしれないね、と言ったら、その時はまた寄り道をしようと誘ってくれた。その流れで参考書を見たいから本屋に行かないかという話になり、それがさっそく次の日に決まった。……というのを登校中に大智に話したら、「え?」と目を丸くしていた。

「すまん、そういうわけだから、今日はちょっと先に帰るわ」

「……別にいいけど……なんか、いつの間にか大川さんと仲良くなってんのな」

「まーね」

 ちょっと顔がニヤけたかもしれない。自分でも表情に締まりがないのが分かる。友達想いの大智のことだから「頑張れよ」なんて前向きな言葉でも掛けてくれるかと少し期待していたのに、それどころか何故かムスッとしていた。

「分かった」

 大智はそれだけ言い残して、靴箱に向かって一人さっさと歩きだす。心なしか怒っているようにも見えて、俺は何かまずいことでも言っただろうかと首を傾げた。

 ―――

「でね、いつも何やっても怒らない田中先生が珍しく怒鳴っちゃって……って、渡辺くん、聞いてる?」

 目の前で手をヒラヒラされて我に返った。

「あ、うん。聞いてるよ」

 せっかく大川さんといるのにボーッとしてしまった。いつの間にか注文していたホットミルクティーが置かれている。誤魔化すように口に含んだら思いの外熱くて火傷した。

「あっち!」

「落ち着いて飲みなよ。どうしたの?」

「いや、ごめん、ちょっと気になることあって」

「英語の小テスト?」

「じゃなくて」

 話すかどうするか迷ったが、ここまで言ったら話すしかないだろうと、俺は今朝の大智のことを話した。大智とはクラスが違うので休み時間にすれ違ったり移動教室で一緒にならない限り校内では会わない。今朝、微妙な空気で別れたまま大智を見ていないので、あれからどんな様子だったのか気になっている。

「大川さん、あいつと同じクラスだろ? なんか変わった様子あった?」

「そんなこと言われても、わたし川島くんとあんまり喋ったことないからなぁ」

 と、頬杖をついた。

「ゴリ先生に当てられていつも通り完璧に公式唱えてたけど」

 ということは、特に不調ではなさそうだ。長年の付き合いだ。素っ気ない気分の時だってあるだろうし、何かあれば言ってくるはず。あまり心配はしないでおこう、とチョコレートがたっぷりかかったドーナツに噛り付いた。

「幼馴染だっけ? 仲良いんだね」

「小学生の時からずっと一緒だからね。俺、あいつには色々助けられてるから」

「確かに、川島くんって優しいよね。前に熱中症でぐったりしてる男子にスポーツドリンクさりげなく渡してたの見たことある。かっこいいし、勉強もスポーツもできるのに鼻にかけないし。川島くんのこと好きな女の子けっこういるみたいね」

 幼馴染の欲目をなしにしても大智はかっこいいのだ。そりゃモテるだろう。

「大川さんも大智みたいなの好き?」

「全然?」

 あっさりはっきり言うのが清々しくもあり、逆に疑わしくもある。

「ほんとに?」

「完璧な人ってわたし苦手なんだよね。いい人なのは分かるけど」

「どういうこと?」

「相手があんまり完璧だとさ、一緒にいると卑屈になっちゃいそうだから」

 その気持ちは分かる気がする。俺も大智のことは友達として大好きだし、尊敬もしているけれど、あいつは非の打ち所がないほど出来た奴なので、どうして俺は同い年なのにこんなに違うんだろうと卑下する瞬間がある。

「……じゃあ、どんなのが好み?」

「うーん、同じ目線で話せる人」

「分かりにく」

 大川さんは「つまり」とオールドファッションを半分に割った。

「一緒に甘い物食べてくれる人かな!」


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