ゆめうつつ 9
目を開けたら自分の部屋の天井があった。眼球だけを動かして辺りの様子を確認したあと、ゆっくり起き上がる。時計を見ると六時を過ぎていた。まさか、と飛び起きてカーテンを開けると、朝日を一気に浴びて目を窄めた。今日は何曜日だったっけ、昨日はどうやって帰ったんだっけと考える。
コン、と強いノックが一度だけされたあと、五十嵐が部屋に入ってきた。
「おはよーさん。気分はどうよ」
「気分?」
「覚えてない? お前、昨日帰り道でぶっ倒れたらしいぜ。お前の知り合いって人が家まで連れて来てくれた」
そういえば、昨夜は会社を出たあと松岡に会ったが途中から記憶がない。家まで連れて来てくれたのは松岡だろう。
「そうなんだ、ごめん。迷惑かけて。夜中だったから起こしたんじゃないか?」
「俺は起きてたし、司をベッドまで運んでくれたのは松岡さんだから、礼を言うなら松岡さんに言えよ」
五十嵐がまるで以前からの知り合いだったかのように自然に松岡の名前を出すので驚いた。彼らのあいだに何かしらのやり取りがあったのだと直感した。
「普通に鍵開けて入ってきた音がしたから、司が帰って来たんだと思ってリビングに出たんだ。そしたら司を抱えた松岡さんがいて、『夜分に失礼します。僕は彼の知り合いの松岡と申します。先ほど彼が帰宅途中で倒れてしまったので、手帳から住所を確認して、彼の鍵をお借りしました』って言って、部屋に運んでくれたんだ。司の会社に国税が入ってるのも知ってるんだな。疲労が溜まってるだろうから、目を覚まして具合が悪そうだったら病院に行けと勧めてやってくれと言われた」
「そ、そうなんだ」
「で、気分はどう。朝飯食える? パンしかないけど」
「うん、もう大丈夫。ありがとう」
五十嵐は司の鍵をちらつかせた。受け取ろうと近寄ったが、鍵に触れる直前でかわされた。
「返せよ」
「お前の昔好きだった人って、松岡さんだろ」
本当に五十嵐はいつも出し抜けな上に遠慮がない。
「あ、違った。今も好きな人」
「……だったら、なに」
「案外あっさり認めたな」
「否定したところで、お前はもう分かってるんだろ」
「分かってるというか、松岡さんから聞いたから」
ぎょっとして目を見開いた。五十嵐は「分かりやすい奴だな」と言って笑う。
「まあ、座れ。また倒れるぞ」
ベッドに並んで腰を下ろすと、五十嵐は足を組み、話し出した。
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コン、と強いノックが一度だけされたあと、五十嵐が部屋に入ってきた。
「おはよーさん。気分はどうよ」
「気分?」
「覚えてない? お前、昨日帰り道でぶっ倒れたらしいぜ。お前の知り合いって人が家まで連れて来てくれた」
そういえば、昨夜は会社を出たあと松岡に会ったが途中から記憶がない。家まで連れて来てくれたのは松岡だろう。
「そうなんだ、ごめん。迷惑かけて。夜中だったから起こしたんじゃないか?」
「俺は起きてたし、司をベッドまで運んでくれたのは松岡さんだから、礼を言うなら松岡さんに言えよ」
五十嵐がまるで以前からの知り合いだったかのように自然に松岡の名前を出すので驚いた。彼らのあいだに何かしらのやり取りがあったのだと直感した。
「普通に鍵開けて入ってきた音がしたから、司が帰って来たんだと思ってリビングに出たんだ。そしたら司を抱えた松岡さんがいて、『夜分に失礼します。僕は彼の知り合いの松岡と申します。先ほど彼が帰宅途中で倒れてしまったので、手帳から住所を確認して、彼の鍵をお借りしました』って言って、部屋に運んでくれたんだ。司の会社に国税が入ってるのも知ってるんだな。疲労が溜まってるだろうから、目を覚まして具合が悪そうだったら病院に行けと勧めてやってくれと言われた」
「そ、そうなんだ」
「で、気分はどう。朝飯食える? パンしかないけど」
「うん、もう大丈夫。ありがとう」
五十嵐は司の鍵をちらつかせた。受け取ろうと近寄ったが、鍵に触れる直前でかわされた。
「返せよ」
「お前の昔好きだった人って、松岡さんだろ」
本当に五十嵐はいつも出し抜けな上に遠慮がない。
「あ、違った。今も好きな人」
「……だったら、なに」
「案外あっさり認めたな」
「否定したところで、お前はもう分かってるんだろ」
「分かってるというか、松岡さんから聞いたから」
ぎょっとして目を見開いた。五十嵐は「分かりやすい奴だな」と言って笑う。
「まあ、座れ。また倒れるぞ」
ベッドに並んで腰を下ろすと、五十嵐は足を組み、話し出した。
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