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Ⅱ-4

 四限目で授業を終えた司は、五限まで授業がある美央を食堂で待ち、美央が授業を終えると駅へ向かった。たいして空腹でない二人は、ある程度腹が空くまでウィンドショッピングをしながら時間を潰した。
 日が落ちて、肌寒くなった頃に店に向かった。松岡に連れてきてもらった店だ。昨日とは違うウェイトレスが席へ案内する。椅子に掛けた美央は、タオルで手を拭きながらゆっくり店内を見渡した。

「綺麗なところね。いつ来たの?」

「昨日」

「昨日!? どうしてまた」

「中学時代の先輩が神戸にいるんだ。最近、知って。昨日、その先輩が連れて来てくれた」

「その人も大学生なの?」

「働いてる。銀行員だよ。バスケ部の先輩なんだけど、いい人なんだ」

「こんなオシャレな店知ってるなんて、品がある人なのね」

「ああ、確かにそんな感じ。なんていうか……」

「スマート」

「そう、スマート。会ったこともないのに、よく分かるね」

「想像よ」

 美央は得意げにウインクして見せた。司はたったこれだけの情報で、相手がどんな人間か言い当てられるような想像力はない。少し妬けた。
 運ばれてきたペペロンチーノを、美央は幸せそうに頬張った。味も気に入ったようだ。いつも通りの笑顔を司に向ける。昼間のちょっとしたいざこざを、すっかり忘れているようだった。安心もしたが、また同じ問題で口論する時が来るだろうと思うと、少しだけ憂うつだ。

 店を出て、美央が雑誌の新刊を買いたいと言うのでコンビニに寄った。美央が雑誌を探しているあいだ、司はドリンクコーナーへ行く。そこで思いがけず松岡の姿を見つけた。

「こんばんは」

 振り向いた松岡も予想外といった顔をした。

「まさかこんなところで会うなんてな」

「……コンビニ弁当ですか」

「仕事の帰りで、今日は適当に済ませようと思って」

「いつもは炊事とかするんですか?」

「時々ね。でも今は忙しい時期だから。少しの辛抱なんだけどね」

 松岡の目の下にうっすらとクマが出来ている。松岡は昔から弱気なことは言わなかった。本当は司が考えるよりもっと疲れているのだろうと思った。雑誌を抱えた美央が寄ってくる。

「司、お待たせー……」

「あったか?」

「うん。ありがと」

 美央は司に返事をしつつも、目線は松岡に向けていた。口元に少し笑みを浮かべ、軽く会釈をする。

「中学の時の先輩の松岡さん。今日行ったレストラン、この人が連れて行ってくれたんだ」

「ああ! 初めまして」

「初めまして、松岡です」

 松岡と美央が挨拶を交わしている光景が、不思議なものに見えた。

「じゃあ、この子が笠原の彼女?」

「はい」

「井下です」

 「可愛い子じゃないか」と冷やかされる。いつもは誰かに彼女を褒められると誇らしくなるのに、松岡に言われると何故だか素直に喜べないのだった。


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