19【R】
断られることを前提に、川原くんに電話を掛けた。できれば美味しいうちに一緒にころころパイを食べたいからだ。応答した川原くんの周りが騒がしく、外にいるのだとすぐに分かった。
「福島だけど、今、大丈夫?」
『大丈夫です。俺もちょうど電話しようと思ってたんです』
「ほんと? 急で悪いんだけど、今から会えない? ころころパイ覚えてる? さっき、いただいたから一緒に食べようかと思って」
『わ、食べたい。今、駅前にいるんですけど』
すぐ近くにいるから車で迎えに行くと言って、電話を切った。いい年をして口元が緩みっぱなしだ。
駅前のロータリーで車を停めると、噴水で座っていた川原くんがすぐに走ってきた。陽が落ちて薄暗い中なのに、フロントガラス越しに手を振っただけで気付いてくれる。そんな小さなことが幸せだと感じる。川原くんは大きめのバックパックを背負っていた。
「ありがとうございます」
「大学の帰り?」
「あ、……はい。福島さんも?」
「うん。仕事で外に出てたんだけど、そのまま帰ることにした。ころころパイを売ってるお店が、今日で閉店するからさ。僕が前の支店にいた時、担当してたお店だから奥さんと仲良くてね」
「奥さん」
なぜ川原くんが「奥さん」をピックアップしたのか不明だったが、ミラーに映った複雑そうな表情から理解した。
「奥さんって言っても、七十代のおばあちゃんだけど」
どこかホッとしたような顔つきに変わった。僕がこういう、いじらしい反応に弱いと知っていてするのだろうか。「きみは本当に可愛いね」と髪を撫でると、頬をかく。
「嫉妬深くてごめんなさい」
「嬉しいよ。でも僕が好きなのはきみだけだから、心配するようなことはない」
「……」
「さて、ご飯食べた? どこかで食べてから家に来る?」
川原くんは両膝のあいだで親指の爪を擦り合わせ、言いにくそうに提案した。
「遠出したい、です」
「遠出?」
「どこでもいいです。遠いところに行きたい。誰にも邪魔されそうにないところ……」
沈黙ができてしまった。行きたいとか行きたくないとかではなく、川原くんがいきなりそんなことを言うので、何かあったのかと心配になった。黙り込んだ僕を、川原くんは困っているのだと勘違いした。
「ご、ごめんなさい。変なこと言って。忘れて下さい」
「いいよ」
「えっ」
「いいよ。行こうか。どっか遠いところ。ここからなら、太平洋まで行けるだろう」
「で、でも、いいんですか?」
「明日は土曜日で仕事休みだからね。小旅行にはちょうどいいだろ?」
僕はそのままインターチェンジに向かい、高速に乗った。
道中はなるべく明るくいられるように努めた。僕は車に乗ると奥田民生が聴きたくなるけれど、川原くんは何が好きかと聞いたら、聞き慣れない英語のグループ名を言われた。まったく分からないと答えると、スマートフォンのアプリで曲を流してくれる。この時、僕の車にはまだbluetoothが繋がっていなかったから車内でのびのびと聴くことはできなかったけど、スマートフォンから雑に聞こえる音楽を、体を傾け合って一緒に聴くのがまた新鮮でよかった。
サービスエリアで昔ながらのラーメンを食べ、ベンチでころころパイをひとつずつ食べた。辛いもののあとの甘いものは最高だよね、と二人とも口の端にクリームを付けて頬張った。最後のひとつはあとで一緒に食べようと約束して、僕は粉砂糖が乗った川原くんの唇にキスをする。
いったん高速を降りて下道を走り、暗くて何もない山道をひたすら上った。ひとりで運転していたら眠気に負けて事故を起こしそうだが、川原くんが隣でずっと喋りかけてくれていたのでなんとかその危機は免れた。
腕時計の針はもう深夜一時を差している。太平洋まではあと一時間ほどだが、さすがに二人とも疲れたので、途中で見つけたあまり綺麗ではないホテルに入った。外観通り、部屋も狭くて煙草臭い。けれども、中央に置かれてあるダブルベッドが無駄に生々しく見えた。とりあえずスーツのジャケットをハンガーに掛け、「先にお風呂にどうぞ」と言おうとしたところで、背後から抱き付かれた。
「福島さん、今日、最後までしたい」
そんな大胆な誘われ方をされたら眠気なんか吹っ飛ぶし、心臓が破裂しそうだ。
「……眠くない? 大丈夫? 明日でもいいんだよ」
「今日がいい」
それぞれに入浴を済ませ、ベッドの前で、タオルを一枚巻いただけの姿で向かい合った。肌理の細かい綺麗な身体をした川原くんに自分の身体を見られるのは正直言って憂うつだ。僕は標準体型よりやや細めなのでメタボということはないのだけど、鍛えているわけじゃないので、いかにも中年らしい出で立ちが不格好なのだ。
「逞しい身体じゃないから、あんまり見ないでね」
「なんでですか? すごい好き。ドキドキする」
川原くんの手が伸びて、僕の腰に巻いているタオルを解いた。先にすべてを晒してしまう、というのは、どこか屈辱にも似た居たたまれなさがある。川原くんは僕の前にしゃがみ、緊張で畏縮している僕を、手の平で包んだ。もどかしいくらい柔らかい手つきでやわやわと揉まれ、じょじょに僕のものは膨れていく。ある程度の大きさになると、川原くんは口に含んだ。
「わっ、……む、無理しなくていいよ!」
「むり、ひてない」
たどたどしい舌が一生懸命、僕に尽くそうとする。少しずつ少しずつ、川原くんの喉の奥まで吸い込まれていった。決して上手ではないけれど、僕を気持ち良くしようとしてくれている誠意が嬉しい。温かい唾液と、下生えにかかる息、苦しそうなのが可哀想で可愛くて、川原くんの猫のような髪の毛を撫で、耳を撫で、頬に触れた。下半身が漲るとともに僕も立っていられなくなり、川原くんが思いきり吸い上げるのと同時に上体を屈めて、川原くんの口の中に吐精した。飲み込む音がする。
「の、飲んだら、駄目じゃないか……」
「……あんまり上手くできなくて」
「すごく気持ち良かった、ありがとう」
今度は僕の番だね、と、川原くんを立ち上がらせた。密着して、キスをしながら背中や腰に指を這わせていくと、川原くんのものが硬くなっていくのが手に取るように分かる。あえてタオルの上から下半身をまさぐった。重なっている唇のあいだから、川原くんの息が漏れる。膝が崩れたので腰を支えながらベッドに進み、川原くんを寝かせたところでタオルを取った。彼のものは早くも上を向いていて、先が濡れている。
「いつ見ても綺麗だね」
「福島さん、……はやく……」
純情そうな顔をして強請るのが上手なんて、一体誰に教えられたんだろう、なんてわけの分からない嫉妬に駆られる。期待に応えたいのはやまやまだが、僕も僕なりの、セックスのセオリーを大事にしたい。額、頬、唇と順番に唇を落として、首から肩、鎖骨へと舌を滑らせた。ところどころに、控えめな跡を残しながら。とても手触りのいい硬くて平らな胸も執拗に吸った。川原くんは僕が触るところ触るところに敏感になる。特に普段、あまり人に触られることのないだろう脇の下や、乳首や臍周りを愛撫すると腰をよじらせて、耐えるようにして僕を受け止めた。体中を味わい尽くし、さんざん焦らしてやっと肝心な部分に触れる。川原くんは待ち侘びたと言わんばかりに濡れ光っていた。身体をずらして亀頭を咥えると、少しだけしょっぱい。そのまま根本まで一気に含み、そして口腔で吸いながら戻る。
「んぁあ……、あ、」
どうも川原くんの喘ぎ声を聞くと悪戯心が疼いてしまう。僕は一度口を離して、サイドテーブルに置いてあるローションを手の平に出すと、川原くんの窄まった後ろに塗った。
「んっ」
「冷たい? ごめん。なるべく痛くないようにするから」
充分に塗れたら、指を一本、後孔に押し入れた。予想以上に狭いが、案外平気そうなので早々に二本に増やしてみる。それでも苦しそうな素振りはない。
「え、と……初めて……?」
この状況で無神経なことをつい聞いてしまった。けれども川原くんは冷静に、それでいて恥ずかしそうに言った。
「初めてです……でも、自分でしました……福島さんのこと考えてたら、……したくなって」
やっぱり、この子は僕を駄目で悪い大人にする。僕は「そうなんだ」とたまらず笑った。
「ひ、引いてますか?」
「引かないよ。僕だって何度もきみを想いながらしたからね。可愛いから笑うんだよ」
二本の指を体内で蠢かしながら、再び川原くんの漲りを咥えた。傷付けないように丁寧にほぐし、一方で口淫はやや激しめにおこなった。舌先で鈴口と裏筋を刺激し、唇に力を入れて吸いながら頭を上下に動かすと、川原くんは僕の髪の毛を搔き乱した。
「あんん――っ、や、あっ! あ、あぁあ」
頂へ近付く度に体内がほぐれ、それがまた更に快感を呼ぶらしかった。最後にぎゅうっと吸い上げると、川原くんは体をビクン、と震わせて果てる。喉に流れ込む精液と、締め付けられる指。僕の手で絶頂にいかせたのだという優越感があった。
「気持ち良かった?」
「すごく……」
赤い頬に涙が零れている。僕はそれをキスして拭った。まだ後ろに入れたままの指をゆっくり折り曲げ、臍の辺りを探る。あまり奥へ行くとさすがに辛いのか、川原くんは僕の腕を掴んで、歯を食いしばっていた。
「大丈夫? 怖かったらやめてもいいんだよ」
「やだ、やめないで、……したい、早く……」
指を抜くと川原くんは低く呻った。腰を上げた状態でうつ伏せにさせ、自身を川原くんの秘部に宛がった。川原くんの身体が強張る。僕は彼の背中に覆い被さり、耳元で囁いた。
「入るよ。辛かったら言って」
こくこくと頷いているが、息遣いが荒いので恐怖があるようだ。後ろから胸や腹を撫でて緊張を和らげながら、ゆっくりゆっくり進んだ。
「あ――っ、いっ……、はあ、はあっ」
枕を握る拳が痛々しくて、苦しそうな悲鳴に僕も辛くなるが、抜こうとすると駄目だと言う。途中、途中で性器を弄って気を紛らわせ、そうして時間をかけて、最奥まで入りきることができた。白い背中にキスをし、腹に腕を回して抱き締めた。
「辛くない?」
「大丈夫……、福島さん、気持ちいい……?」
「気持ちいい、あったかい」
負担をかけまいと優しくする予定だったのに、一度腰を振れば、その締め付けにあっさり理性を持って行かれ、僕は張りのある形のいい尻を鷲掴みにして川原くんの身体に夢中になった。
「あっ、あっ、あん、」
律動に合わせて赤毛と呼吸が揺れる。耳が赤いのが可愛い。額に滲んだ汗を腕で拭ったあと、本格的に本能に支配された僕は、飢えた獣のように必死になった。胸と下半身を弄り倒し、背中の至る所に跡をつけて、皮膚が赤くなるまで打ち付けた。繋がったまま仰向けにさせると、涙と唾液で真っ赤になった川原くんにまた欲情する。唇に噛みついて滅茶苦茶なキスをして、また一心不乱に腰を振った。
「あぁうっ、や、ぁ、……だっ、だめ、ああっ、」
「は、はぁっ、川原くん、好きだよ、好きだ、可愛い……っ」
「んっ、あ、おれも、すき……、あぅ、い、いっちゃ……、」
最後はお互いにしがみつき合って、はるか高く昇り切った。
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「福島だけど、今、大丈夫?」
『大丈夫です。俺もちょうど電話しようと思ってたんです』
「ほんと? 急で悪いんだけど、今から会えない? ころころパイ覚えてる? さっき、いただいたから一緒に食べようかと思って」
『わ、食べたい。今、駅前にいるんですけど』
すぐ近くにいるから車で迎えに行くと言って、電話を切った。いい年をして口元が緩みっぱなしだ。
駅前のロータリーで車を停めると、噴水で座っていた川原くんがすぐに走ってきた。陽が落ちて薄暗い中なのに、フロントガラス越しに手を振っただけで気付いてくれる。そんな小さなことが幸せだと感じる。川原くんは大きめのバックパックを背負っていた。
「ありがとうございます」
「大学の帰り?」
「あ、……はい。福島さんも?」
「うん。仕事で外に出てたんだけど、そのまま帰ることにした。ころころパイを売ってるお店が、今日で閉店するからさ。僕が前の支店にいた時、担当してたお店だから奥さんと仲良くてね」
「奥さん」
なぜ川原くんが「奥さん」をピックアップしたのか不明だったが、ミラーに映った複雑そうな表情から理解した。
「奥さんって言っても、七十代のおばあちゃんだけど」
どこかホッとしたような顔つきに変わった。僕がこういう、いじらしい反応に弱いと知っていてするのだろうか。「きみは本当に可愛いね」と髪を撫でると、頬をかく。
「嫉妬深くてごめんなさい」
「嬉しいよ。でも僕が好きなのはきみだけだから、心配するようなことはない」
「……」
「さて、ご飯食べた? どこかで食べてから家に来る?」
川原くんは両膝のあいだで親指の爪を擦り合わせ、言いにくそうに提案した。
「遠出したい、です」
「遠出?」
「どこでもいいです。遠いところに行きたい。誰にも邪魔されそうにないところ……」
沈黙ができてしまった。行きたいとか行きたくないとかではなく、川原くんがいきなりそんなことを言うので、何かあったのかと心配になった。黙り込んだ僕を、川原くんは困っているのだと勘違いした。
「ご、ごめんなさい。変なこと言って。忘れて下さい」
「いいよ」
「えっ」
「いいよ。行こうか。どっか遠いところ。ここからなら、太平洋まで行けるだろう」
「で、でも、いいんですか?」
「明日は土曜日で仕事休みだからね。小旅行にはちょうどいいだろ?」
僕はそのままインターチェンジに向かい、高速に乗った。
道中はなるべく明るくいられるように努めた。僕は車に乗ると奥田民生が聴きたくなるけれど、川原くんは何が好きかと聞いたら、聞き慣れない英語のグループ名を言われた。まったく分からないと答えると、スマートフォンのアプリで曲を流してくれる。この時、僕の車にはまだbluetoothが繋がっていなかったから車内でのびのびと聴くことはできなかったけど、スマートフォンから雑に聞こえる音楽を、体を傾け合って一緒に聴くのがまた新鮮でよかった。
サービスエリアで昔ながらのラーメンを食べ、ベンチでころころパイをひとつずつ食べた。辛いもののあとの甘いものは最高だよね、と二人とも口の端にクリームを付けて頬張った。最後のひとつはあとで一緒に食べようと約束して、僕は粉砂糖が乗った川原くんの唇にキスをする。
いったん高速を降りて下道を走り、暗くて何もない山道をひたすら上った。ひとりで運転していたら眠気に負けて事故を起こしそうだが、川原くんが隣でずっと喋りかけてくれていたのでなんとかその危機は免れた。
腕時計の針はもう深夜一時を差している。太平洋まではあと一時間ほどだが、さすがに二人とも疲れたので、途中で見つけたあまり綺麗ではないホテルに入った。外観通り、部屋も狭くて煙草臭い。けれども、中央に置かれてあるダブルベッドが無駄に生々しく見えた。とりあえずスーツのジャケットをハンガーに掛け、「先にお風呂にどうぞ」と言おうとしたところで、背後から抱き付かれた。
「福島さん、今日、最後までしたい」
そんな大胆な誘われ方をされたら眠気なんか吹っ飛ぶし、心臓が破裂しそうだ。
「……眠くない? 大丈夫? 明日でもいいんだよ」
「今日がいい」
それぞれに入浴を済ませ、ベッドの前で、タオルを一枚巻いただけの姿で向かい合った。肌理の細かい綺麗な身体をした川原くんに自分の身体を見られるのは正直言って憂うつだ。僕は標準体型よりやや細めなのでメタボということはないのだけど、鍛えているわけじゃないので、いかにも中年らしい出で立ちが不格好なのだ。
「逞しい身体じゃないから、あんまり見ないでね」
「なんでですか? すごい好き。ドキドキする」
川原くんの手が伸びて、僕の腰に巻いているタオルを解いた。先にすべてを晒してしまう、というのは、どこか屈辱にも似た居たたまれなさがある。川原くんは僕の前にしゃがみ、緊張で畏縮している僕を、手の平で包んだ。もどかしいくらい柔らかい手つきでやわやわと揉まれ、じょじょに僕のものは膨れていく。ある程度の大きさになると、川原くんは口に含んだ。
「わっ、……む、無理しなくていいよ!」
「むり、ひてない」
たどたどしい舌が一生懸命、僕に尽くそうとする。少しずつ少しずつ、川原くんの喉の奥まで吸い込まれていった。決して上手ではないけれど、僕を気持ち良くしようとしてくれている誠意が嬉しい。温かい唾液と、下生えにかかる息、苦しそうなのが可哀想で可愛くて、川原くんの猫のような髪の毛を撫で、耳を撫で、頬に触れた。下半身が漲るとともに僕も立っていられなくなり、川原くんが思いきり吸い上げるのと同時に上体を屈めて、川原くんの口の中に吐精した。飲み込む音がする。
「の、飲んだら、駄目じゃないか……」
「……あんまり上手くできなくて」
「すごく気持ち良かった、ありがとう」
今度は僕の番だね、と、川原くんを立ち上がらせた。密着して、キスをしながら背中や腰に指を這わせていくと、川原くんのものが硬くなっていくのが手に取るように分かる。あえてタオルの上から下半身をまさぐった。重なっている唇のあいだから、川原くんの息が漏れる。膝が崩れたので腰を支えながらベッドに進み、川原くんを寝かせたところでタオルを取った。彼のものは早くも上を向いていて、先が濡れている。
「いつ見ても綺麗だね」
「福島さん、……はやく……」
純情そうな顔をして強請るのが上手なんて、一体誰に教えられたんだろう、なんてわけの分からない嫉妬に駆られる。期待に応えたいのはやまやまだが、僕も僕なりの、セックスのセオリーを大事にしたい。額、頬、唇と順番に唇を落として、首から肩、鎖骨へと舌を滑らせた。ところどころに、控えめな跡を残しながら。とても手触りのいい硬くて平らな胸も執拗に吸った。川原くんは僕が触るところ触るところに敏感になる。特に普段、あまり人に触られることのないだろう脇の下や、乳首や臍周りを愛撫すると腰をよじらせて、耐えるようにして僕を受け止めた。体中を味わい尽くし、さんざん焦らしてやっと肝心な部分に触れる。川原くんは待ち侘びたと言わんばかりに濡れ光っていた。身体をずらして亀頭を咥えると、少しだけしょっぱい。そのまま根本まで一気に含み、そして口腔で吸いながら戻る。
「んぁあ……、あ、」
どうも川原くんの喘ぎ声を聞くと悪戯心が疼いてしまう。僕は一度口を離して、サイドテーブルに置いてあるローションを手の平に出すと、川原くんの窄まった後ろに塗った。
「んっ」
「冷たい? ごめん。なるべく痛くないようにするから」
充分に塗れたら、指を一本、後孔に押し入れた。予想以上に狭いが、案外平気そうなので早々に二本に増やしてみる。それでも苦しそうな素振りはない。
「え、と……初めて……?」
この状況で無神経なことをつい聞いてしまった。けれども川原くんは冷静に、それでいて恥ずかしそうに言った。
「初めてです……でも、自分でしました……福島さんのこと考えてたら、……したくなって」
やっぱり、この子は僕を駄目で悪い大人にする。僕は「そうなんだ」とたまらず笑った。
「ひ、引いてますか?」
「引かないよ。僕だって何度もきみを想いながらしたからね。可愛いから笑うんだよ」
二本の指を体内で蠢かしながら、再び川原くんの漲りを咥えた。傷付けないように丁寧にほぐし、一方で口淫はやや激しめにおこなった。舌先で鈴口と裏筋を刺激し、唇に力を入れて吸いながら頭を上下に動かすと、川原くんは僕の髪の毛を搔き乱した。
「あんん――っ、や、あっ! あ、あぁあ」
頂へ近付く度に体内がほぐれ、それがまた更に快感を呼ぶらしかった。最後にぎゅうっと吸い上げると、川原くんは体をビクン、と震わせて果てる。喉に流れ込む精液と、締め付けられる指。僕の手で絶頂にいかせたのだという優越感があった。
「気持ち良かった?」
「すごく……」
赤い頬に涙が零れている。僕はそれをキスして拭った。まだ後ろに入れたままの指をゆっくり折り曲げ、臍の辺りを探る。あまり奥へ行くとさすがに辛いのか、川原くんは僕の腕を掴んで、歯を食いしばっていた。
「大丈夫? 怖かったらやめてもいいんだよ」
「やだ、やめないで、……したい、早く……」
指を抜くと川原くんは低く呻った。腰を上げた状態でうつ伏せにさせ、自身を川原くんの秘部に宛がった。川原くんの身体が強張る。僕は彼の背中に覆い被さり、耳元で囁いた。
「入るよ。辛かったら言って」
こくこくと頷いているが、息遣いが荒いので恐怖があるようだ。後ろから胸や腹を撫でて緊張を和らげながら、ゆっくりゆっくり進んだ。
「あ――っ、いっ……、はあ、はあっ」
枕を握る拳が痛々しくて、苦しそうな悲鳴に僕も辛くなるが、抜こうとすると駄目だと言う。途中、途中で性器を弄って気を紛らわせ、そうして時間をかけて、最奥まで入りきることができた。白い背中にキスをし、腹に腕を回して抱き締めた。
「辛くない?」
「大丈夫……、福島さん、気持ちいい……?」
「気持ちいい、あったかい」
負担をかけまいと優しくする予定だったのに、一度腰を振れば、その締め付けにあっさり理性を持って行かれ、僕は張りのある形のいい尻を鷲掴みにして川原くんの身体に夢中になった。
「あっ、あっ、あん、」
律動に合わせて赤毛と呼吸が揺れる。耳が赤いのが可愛い。額に滲んだ汗を腕で拭ったあと、本格的に本能に支配された僕は、飢えた獣のように必死になった。胸と下半身を弄り倒し、背中の至る所に跡をつけて、皮膚が赤くなるまで打ち付けた。繋がったまま仰向けにさせると、涙と唾液で真っ赤になった川原くんにまた欲情する。唇に噛みついて滅茶苦茶なキスをして、また一心不乱に腰を振った。
「あぁうっ、や、ぁ、……だっ、だめ、ああっ、」
「は、はぁっ、川原くん、好きだよ、好きだ、可愛い……っ」
「んっ、あ、おれも、すき……、あぅ、い、いっちゃ……、」
最後はお互いにしがみつき合って、はるか高く昇り切った。
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- Posted in: ★ひとりぼっちにさよなら
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