15【R】
「絵を描いて欲しいって頼まれた時より前から、俺も福島さんのこと知ってました。いつもコーヒーショップのテラス席で、美味しそうにコーヒー飲む人がいるなぁって、最初はその程度でした。時々、こっちを見てるのに気付いてたけど、絵が気になるのかなってくらいで、不思議に嫌悪感もありませんでした。たぶん、他の人だったら気持ち悪いって思ったと思う。声を掛けられた時、すごく嬉しかった。でも、ご家族の写真を見て、ちょっとだけショックを受けている自分もいました」
あの頃の僕は、まだ川原くんのことを純粋に「気になる絵描き」くらいにしか思っていなかった。川原くんの告白が本当なら、僕より川原くんのほうが先に好きになっていたということだ。
「家庭のある人を好きになっても仕方がないって分かってるのに、メールをもらうと嬉しかったし、会った時は少しでも話したくて、だからしつこく誘ったんです。……ごめんなさい、福島さんの迷惑を考えないで」
「……それは、……お互い様だからね」
「福島さんの寂しさを俺で埋めることはできませんか」
欝々とした気分が一気に晴れ渡るようだが、僕はそれをそのまま受け取ることができなかった。僕はまだ夢を見ているのだろうか。そうだ。そうとしか考えられない。川原くんのように未来も才能もある青年が、こんな落ちぶれた中年を好きになってくれるはずがない。第一、僕らは男同士で年の差だってある。どう考えても堂々と振る舞える関係でない。
「……きみは……男の人が好き、なの……?」
「いや、そういうわけじゃないですけど。……福島さんは特別です。一緒にいたいなって思うし、好きだなって思う」
「それなら尚更いけないじゃないか。きみの言う『好き』は親近感とか安心感とか、そういうものだよ。恋愛感情じゃない。……電話をした僕がいけなかった。きみをそんな関係に引き摺り込むつもりじゃなかったのに」
「でも、福島さんだってそうでしょ? 男が好きなわけではないのに、男の俺をそういう対象で見れるんでしょ?」
「それは……」
一度目を合わせたら、もう引き戻せなかった。猫のような可愛い眼で見上げられたら理性もへったくれもない。川原くんが先に動いて、ゆっくり顔を近付けてくる。金縛りにあってしまった僕は目も瞑れない。薄いのに柔らかい唇が重ねられ、その温かさと感触に夢じゃないのだと確信する。軽く合わせただけの唇は少しだけ離れ、間近で視線を絡めた。今度は僕から押し付けた。ちゅ、と小さくリップ音を立て、それが引き金となって強くキスをする。キス、なんて行為はいつぶりだろう。唇というのはこんなに感じるものなのか。合わさる気息、舌の温かさ、このまま全部飲み込みたいという狂気的な快感だ。すっかり余裕をなくした僕があまりに押し付けるものだから、川原くんの身体が逃げていく。僕はその細い腰を抱き寄せ、勢いのまま抱きあげてソファに押し倒した。しっかり両手首を縛り、貪るようにキスを続ける。次第に荒くなる川原くんの息遣いが色っぽくて、荒波のように血潮が騒ぐ。ようやく顔を離して川原くんを見下ろすと、少し瞳がうるんでいた。川原くんがふいに立てた膝が、興奮した僕の下半身に当たる。
「ごめんね、こんな余裕のない大人で」
川原くんも窮屈そうにズボンを押し上げていた。僕はその昂りにそっと触れる。
「勃ってるね」
「ん……ごめ……なさい」
ああ、可愛い。心臓がすごく痒くて腹の底から好きだという気持ちが込み上げてくる。これが愛しいということだ。川原くんのそれを撫で、ゆっくりホックとジッパーを解放する。下着の中に手を滑り込ませると、僅かに潤った若々しいものが見えた。
「き、汚い、……です……」
「きみが嫌じゃなければ、可愛がってあげたい」
耳を赤くしたのは受け入れたのだと解釈して、僕は彼の熱くなった屹立を揉んだ。軽く握り、親指で裏筋を辿り、鈴口を撫でれば、透明の蜜が糸を引く。
「あっ……」
溢れる愛液を塗り広げ、痛くないようにゆっくり、丁寧に促した。
「やっ、あ、ふ……しまさ、……福島さんっ、あぁ……っ」
「いいよ、出して」
キュッと亀頭をねじると、先端から白濁液が飛び出す。川原くんは僕の手の中で、しばらく活きのいい魚のように震えていた。額に光る汗にも目尻に滲む涙にも見惚れてしまう。
「気持ち良かった?」
「はい……、福島さんは……?」
「僕は、あとでするから」
川原くんは、恥じらいながら「見たい」と呟いた。
「でも」
「福島さんの……見たいです……」
そして川原くんの細い指が、ベルトに引っ掛かる。こんなこといけないと思うのに、期待している。ホックを外し、ジッパーを下げ、下着を引っ張られる。僕のも少し濡れていた。触ろうとする川原くんを止める。
「自分で、するから……」
「見ててもいい?」
「嫌だったら目を瞑ってね」
自分がこんなに変態だとは思わなかった。僕は無防備な川原くんを見下ろしながら手を動かした。たぶん余裕がなさすぎて無意識だったのだと思う。僕は自身を扱きながら、衣服越しに川原くんの体を撫で回し、時々キスをして、夢の中で裸で乱れる彼と重ねながら、「川原くん、川原くん」と名前を呼びながら達した。
川原くんは一度も目を閉じなかった。僕が格好悪く取り乱して果てる姿を見届けると、首に両腕を回して体を浮かせ、キスをした。
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あの頃の僕は、まだ川原くんのことを純粋に「気になる絵描き」くらいにしか思っていなかった。川原くんの告白が本当なら、僕より川原くんのほうが先に好きになっていたということだ。
「家庭のある人を好きになっても仕方がないって分かってるのに、メールをもらうと嬉しかったし、会った時は少しでも話したくて、だからしつこく誘ったんです。……ごめんなさい、福島さんの迷惑を考えないで」
「……それは、……お互い様だからね」
「福島さんの寂しさを俺で埋めることはできませんか」
欝々とした気分が一気に晴れ渡るようだが、僕はそれをそのまま受け取ることができなかった。僕はまだ夢を見ているのだろうか。そうだ。そうとしか考えられない。川原くんのように未来も才能もある青年が、こんな落ちぶれた中年を好きになってくれるはずがない。第一、僕らは男同士で年の差だってある。どう考えても堂々と振る舞える関係でない。
「……きみは……男の人が好き、なの……?」
「いや、そういうわけじゃないですけど。……福島さんは特別です。一緒にいたいなって思うし、好きだなって思う」
「それなら尚更いけないじゃないか。きみの言う『好き』は親近感とか安心感とか、そういうものだよ。恋愛感情じゃない。……電話をした僕がいけなかった。きみをそんな関係に引き摺り込むつもりじゃなかったのに」
「でも、福島さんだってそうでしょ? 男が好きなわけではないのに、男の俺をそういう対象で見れるんでしょ?」
「それは……」
一度目を合わせたら、もう引き戻せなかった。猫のような可愛い眼で見上げられたら理性もへったくれもない。川原くんが先に動いて、ゆっくり顔を近付けてくる。金縛りにあってしまった僕は目も瞑れない。薄いのに柔らかい唇が重ねられ、その温かさと感触に夢じゃないのだと確信する。軽く合わせただけの唇は少しだけ離れ、間近で視線を絡めた。今度は僕から押し付けた。ちゅ、と小さくリップ音を立て、それが引き金となって強くキスをする。キス、なんて行為はいつぶりだろう。唇というのはこんなに感じるものなのか。合わさる気息、舌の温かさ、このまま全部飲み込みたいという狂気的な快感だ。すっかり余裕をなくした僕があまりに押し付けるものだから、川原くんの身体が逃げていく。僕はその細い腰を抱き寄せ、勢いのまま抱きあげてソファに押し倒した。しっかり両手首を縛り、貪るようにキスを続ける。次第に荒くなる川原くんの息遣いが色っぽくて、荒波のように血潮が騒ぐ。ようやく顔を離して川原くんを見下ろすと、少し瞳がうるんでいた。川原くんがふいに立てた膝が、興奮した僕の下半身に当たる。
「ごめんね、こんな余裕のない大人で」
川原くんも窮屈そうにズボンを押し上げていた。僕はその昂りにそっと触れる。
「勃ってるね」
「ん……ごめ……なさい」
ああ、可愛い。心臓がすごく痒くて腹の底から好きだという気持ちが込み上げてくる。これが愛しいということだ。川原くんのそれを撫で、ゆっくりホックとジッパーを解放する。下着の中に手を滑り込ませると、僅かに潤った若々しいものが見えた。
「き、汚い、……です……」
「きみが嫌じゃなければ、可愛がってあげたい」
耳を赤くしたのは受け入れたのだと解釈して、僕は彼の熱くなった屹立を揉んだ。軽く握り、親指で裏筋を辿り、鈴口を撫でれば、透明の蜜が糸を引く。
「あっ……」
溢れる愛液を塗り広げ、痛くないようにゆっくり、丁寧に促した。
「やっ、あ、ふ……しまさ、……福島さんっ、あぁ……っ」
「いいよ、出して」
キュッと亀頭をねじると、先端から白濁液が飛び出す。川原くんは僕の手の中で、しばらく活きのいい魚のように震えていた。額に光る汗にも目尻に滲む涙にも見惚れてしまう。
「気持ち良かった?」
「はい……、福島さんは……?」
「僕は、あとでするから」
川原くんは、恥じらいながら「見たい」と呟いた。
「でも」
「福島さんの……見たいです……」
そして川原くんの細い指が、ベルトに引っ掛かる。こんなこといけないと思うのに、期待している。ホックを外し、ジッパーを下げ、下着を引っ張られる。僕のも少し濡れていた。触ろうとする川原くんを止める。
「自分で、するから……」
「見ててもいい?」
「嫌だったら目を瞑ってね」
自分がこんなに変態だとは思わなかった。僕は無防備な川原くんを見下ろしながら手を動かした。たぶん余裕がなさすぎて無意識だったのだと思う。僕は自身を扱きながら、衣服越しに川原くんの体を撫で回し、時々キスをして、夢の中で裸で乱れる彼と重ねながら、「川原くん、川原くん」と名前を呼びながら達した。
川原くんは一度も目を閉じなかった。僕が格好悪く取り乱して果てる姿を見届けると、首に両腕を回して体を浮かせ、キスをした。
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- Posted in: ★ひとりぼっちにさよなら
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