達也と圭介3【R】
―――
中学に入って、達也は結局、美術部を選んだ。部員が数名の廃部寸前の部だった。活動日も曖昧で、好きな時にふらりと美術室に行っては適当に絵を描くか雑談をして終わる。達也は絵を描くのは好きだが得意ではなかった。部員の中にはその道を目指す生徒もいて、そういった生徒の作品を見ては描く気が失せていった。次第に部活から遠ざかるようになり、しまいには自分が美術部員であることを忘れてしまうほどだった。
一方、圭介は五歳から所属しているサッカークラブをそのまま続けた。放課後になるとすぐに下校してクラブに向かうか、スポーツ施設で自主練習に励む。本人の口からはっきり聞いたことはなくても、圭介が誰よりもサッカーを好きで努力を怠らないことは達也が一番よく知っている。
中学二年の冬になると、圭介が女友達と一緒にいるところをよく見かけるようになった。彼女がいてもおかしくない年齢ではあるが、一緒にいる女友達がしょっちゅう入れ替わっていることには違和感を覚えた。対人に関して誠実でありたい性分の達也には理解しがたい。何より、人付き合いが苦手な彼が女を弄ぶとは考えられなかった。見る限りサッカークラブにも通っていない。付かず離れずの関係の達也が、圭介の私生活に口を出す立場にはないとは思ったが、どうしても訊ねずにはいられなかった。
ある学校帰りに、圭介の家を訪ねた。インターホンを鳴らして数分後に現れたのは、同じ学校に通う女の子だった。ちょうど家を出るところだったのだろう。達也と目が合うとギョッと目を見開いて、逃げるようにして去った。不愉快な想像をしながら、達也は玄関先から「お邪魔します」と投げ掛けた。何も返事がないので勝手に上がることにする。圭介の部屋であろうドアを軽くノックすると「入れば」と声がした。ゆっくりノブを回す。上半身が裸のままベッドにけだるそうに座っていた。
「勝手に上がってごめん」
「好きにすれば。なんか用かよ」
「……さっきの子、二組の子だよね。付き合ってるの?」
「そんなんじゃない。ちょっと試しにヤッてみただけ。ああ、無理強いじゃないからな」
「あの……そのことなんだけど」
「それより、喉が渇いたんだよ。ちょっと待ってろ」
達也を通り過ぎて、圭介はキッチンへ向かった。どうすればいいのか分からず、達也は部屋に入って軽くベッドのシーツを整えた。戻って来た圭介が呆れて言う。
「普通さぁ、他人がヤッたあとのベッドなんか片付けたくもないし近付きたくもねぇだろ」
「片付けたいわけでも近付きたいわけでもないよ。それより」
ホットレモネードを差し出された。蜂蜜とレモンの香りが微かに湯気に乗って鼻に届く。マグカップを受け取った達也はそのままベッドに腰を下ろして飲んだ。冷えた体が温まる。ああ、そうだ、この味だ、と懐かしくなった。
「『それより』なんだよ」
「あの、女の子と付き合うのはいいんだけど、とっかえひっかえするのはどうかと思うよ」
「そういうのに拘らない奴を選んでんだぜ」
「でもさ、そ、そういうことは……ちゃんと好きになった子としたほうが……」
「そういうことってエッチのこと?」
あからさまな言葉に顔を赤くして俯いた。一応の知識はあるが達也にとっては未知の領域だ。
「け、圭介ってそういう奴だっけ……。どっちかというと興味ないのかと思ってた」
「そりゃお前の勝手なイメージだ。普通にエロ動画も見るしヤリてぇしな」
「サッカーは? 行ってないんじゃない?」
あれだけ熱心に続けているサッカーだ。部屋にはサッカー用品がそこら中にあるのだろうと想像していたが、意外にもそういった物は一切見当たらない。代わりに勉強机の隅にサポーターとテーピングがあった。
「何かあったの?」
「達也には関係ない」
「でも僕は圭介がサッカーしてる姿を見るのが好きなんだ。圭介が楽しそうにクラブに向かう姿をみると嬉しくなった。それなのに急にクラブにも行かなくなって女子と遊んでばかりで。正直見たくないよ、そんなの」
「知った風に言うな。お前に何が分かるんだよ。いっつもひとりで陰気げにしてる奴が偉そうに」
「……知らないから……わけを聞きに来たんじゃないか」
「別に悩み事を相談しあうような仲じゃないだろ、俺ら」
それは達也も昔から理解している。そもそも「友人」と言える関係かどうかも怪しい。
「……僕は圭介と……仲良くなりたい、から」
自分でもあまりに幼稚すぎる願望に呆れる。口にしてから恥ずかしくなった。レモネードのカップを持つ手が震えている。暫くの沈黙のあと、圭介が達也のカップを取った。
「そういうのは今頃言われても困るんだよ」
「……」
「左膝の靭帯を痛めただけだ。すぐ病院に行ったし、サポーターとテーピングでかなり回復した。でも怪我をしてから試合に出してくれなくなった」
「それはでも……怪我してるからでしょ?」
「もともと俺は実力があるわけじゃねぇんだ。スタメン降ろされないように頑張ってただけだ。でも怪我をして他の奴に取られたら、もうそれきりだ」
「だって、せっかく続けてきたのに勿体ないよ。……サッカーだけは続けようよ」
「だから偉そうに言うなよ。今更出てきてなんなんだよ。今まで何も言ってこなかったくせに。……サッカーにやる気がなくなったら、急にハメを外してみたくてさ。俺、案外モテるんだよ」
得意げに笑うので「知ってる」と返した。
「なんでも良かったんだよ。気が紛れるなら」
圭介はまだ服を着ていない上半身をベッドに投げ出して横たわる。圭介は地黒だと思い込んでいたが、色が濃いのは露出している部分だけであって腹や胸は白かった。それでも逞しく思えるのは筋肉に包まれているからだろう。何を思ってか、達也は圭介の肌に触れた。自分にはない体つきが羨ましかったからだ。深い意味はない、ただの興味本位だった。だが、それが浅はかだった。圭介に手首を取られて簡単に組み敷かれた。両手首をがっちり握られていてびくともしない。
「な、なに」
「そっちが先に触ってきたんだろ?」
「勘違いしてない!? 僕は男だ!」
「本当に男かどうか見てやるよ、モヤシっ子」
カッとなって圭介の腹に蹴りを入れた。圭介が腹を抱えて隙を見せた瞬間に逃れようとしたが、すぐに背後を取られて床に押し倒された。無理やり振り向かされ、強引に唇を奪われる。首を振って抵抗するとかえって刺激したのか、顎を掴まれて舌を入れられた。
「……っ、やめて!」
「慰めに来たんだろ?」
「こういうことじゃない! 見境ないのかよ…っ、最低だ!」
「見境はあるぜ。俺は『男』を抱きたいわけじゃない。『お前』を抱きたいんだ」
「散々、女子とヤッてたくせに!」
「あいつらは、その場凌ぎだよ。でも結局凌げないから困ってたんだ。でも達也は違う」
「違うって!?」
「お前、俺のこと好きだろ」
ずばりと言われて動きが止まった。肯定したのと同じだ。目を泳がせてうろたえた。
「いっつも俺のこと見てるの、知ってるんだぜ。犬みたいな顔でさ。俺が女子といて悔しそうな眼ぇしてんの、すげぇ面白いわ」
「さ、最低」
うすうす気付いてはいても自分では認めたくないことだった。恋じゃない、友情なんだと思い込んでいたかった。それを本人にはっきり断言されて返す言葉もなかった。
「からかってるんじゃないぜ。こう見えても喜んでんだ」
「う、嘘だ。気持ち悪いなら、はっきり言えばいいじゃないか。もう来るなって言ってよ」
「俺の傍にいろ」
まっすぐ視線が絡み合う。圭介の顔つきは本気だった。
「お前がいてくれるんなら、もう女としない」
「なんで……僕なの」
「俺だって本当は仲良くなりたかったよ」
今度は触れるだけのキスをされた。首に移動して、制服の第一ボタンとワイシャツのボタンをこじ開けて胸元にも唇が落ちる。
「僕は……男だよ」
「知ってるよ」
「胸もないよ」
「見りゃ分かる。白いな」
いつの間にボタンを解いたのか、前をすべて開け放された。さらした胸の先を軽くつままれて、肩をすくめた。他人に触れられることがこんなに恥ずかしくて気持ちいいのかと混乱する。脱げ、と言われて戸惑いながら脱いた。圭介はそのあいだにズボンと下着を脱ぎ捨て、堂々を達也に体を見せつける。目のやり場に困る。下着一枚だけになった時、圭介はすぐさまベッドに倒し、達也の下着を取った。無理やり足をこじ開けて達也を口に含む。
「ぅわ! やだ! やめてよ!」
「これが気持ちいいって知ったら、俺から離れなくなるだろ」
「やめて……あっ……そんなしないで……」
舐めつくされて、すぐに硬くなった。下半身がむず痒い感覚が正しい判断を鈍らせる。
「お前もやれ」
「な、何を」
「俺と同じことだよ。そっちに後ろ向けるから、俺の舐めろ」
「え!?」
「早くしろよ、じゃねぇと俺もすぐ出ちまうだろ」
膝立ちした圭介の下半身に目をやると、怯えるくらいに反り返っていた。本当はまだ覚悟も勇気もなかった。キスどころか手も繋いだことのないような初心な彼が、いきなり他人の性器を口に含むなんて考えられなかった。けれども、拒めば圭介とは永遠に話もできなくなる気がする。圭介は達也の顔を跨ぐと口に自身を押し入れた。驚きで思わず舌で押し返そうとしてしまう。圭介も多少気詰まりがあるのか、無理に進めはしない。少しずつ迎え入れ、時間をかけて根本まで含む。そればかりに集中しすぎて圭介が態勢を変えたことに気付かなかった。ふいに下半身に温かみを感じて口を離した。
「続けろ」
そう言われても間近で秘部を見られていることと、それを咥えられていると考えるだけで集中できない。しかもざわざわ襲ってくる快感が筋肉を緩ませる。
「ふぅ……う、……出、ちゃ……っ」
「しょうがねぇな、初心者。いったんイカせてやる」
圭介は先端だけ咥え、一気に扱いた。既に限界寸前だった達也は、あっけなく達してしまった。
「よかったろ?」
「……」
「気持ちよかった、だろ?」
「……う、ん」
「忘れるなよ。俺といたら気持ちいいこと、いっぱいしてやる」
「でもどうせ……女の子とも、するんでしょ」
「しない。達也以外とはしない。だから今度からお前が俺を慰めろよ」
「……サッカー、やめない?」
「……ああ、やめない」
「約束だよ」
―――
ゆっくり腰を落として、圭介を体内に取り込んだ。何度してもこの瞬間だけは若干の恐怖が残る。沈みきると深く息を吐いた。
「あったけぇな」
「……圭介のも熱いよ」
セックスはいつも圭介の指示通りに、達也が動く。正直に言うと肉体的にきついこともある。圭介は体力がある分、限界までが長い。早く達してくれと願うこともしばしばだ。それでも圭介を自分の手で気持ち良くできていると思えば耐えられた。
「もっと……動けよ」
「うっ……ぁ、はあ、はぁ……」
「きついか」
「だい、じょぶ……。圭介は……? 気持ちいい?」
「ああ、いいよ。すげぇいいよ」
「……よかった」
圭介は上半身を起こして、達也を抱き締めた。唇に噛みつき、耳から鎖骨にかけて舌を往復させ、胸に吸い付く。達也は圭介の長い黒髪を鷲掴みにした。
「あっ、あ、圭介っ」
「達也、ずっと俺のものでいろよ」
「……ん、圭介も……」
「分かってるよ。もうお前だけだ」
「約束だよ……」
達也は圭介より先に限界を超えた。
⇒
中学に入って、達也は結局、美術部を選んだ。部員が数名の廃部寸前の部だった。活動日も曖昧で、好きな時にふらりと美術室に行っては適当に絵を描くか雑談をして終わる。達也は絵を描くのは好きだが得意ではなかった。部員の中にはその道を目指す生徒もいて、そういった生徒の作品を見ては描く気が失せていった。次第に部活から遠ざかるようになり、しまいには自分が美術部員であることを忘れてしまうほどだった。
一方、圭介は五歳から所属しているサッカークラブをそのまま続けた。放課後になるとすぐに下校してクラブに向かうか、スポーツ施設で自主練習に励む。本人の口からはっきり聞いたことはなくても、圭介が誰よりもサッカーを好きで努力を怠らないことは達也が一番よく知っている。
中学二年の冬になると、圭介が女友達と一緒にいるところをよく見かけるようになった。彼女がいてもおかしくない年齢ではあるが、一緒にいる女友達がしょっちゅう入れ替わっていることには違和感を覚えた。対人に関して誠実でありたい性分の達也には理解しがたい。何より、人付き合いが苦手な彼が女を弄ぶとは考えられなかった。見る限りサッカークラブにも通っていない。付かず離れずの関係の達也が、圭介の私生活に口を出す立場にはないとは思ったが、どうしても訊ねずにはいられなかった。
ある学校帰りに、圭介の家を訪ねた。インターホンを鳴らして数分後に現れたのは、同じ学校に通う女の子だった。ちょうど家を出るところだったのだろう。達也と目が合うとギョッと目を見開いて、逃げるようにして去った。不愉快な想像をしながら、達也は玄関先から「お邪魔します」と投げ掛けた。何も返事がないので勝手に上がることにする。圭介の部屋であろうドアを軽くノックすると「入れば」と声がした。ゆっくりノブを回す。上半身が裸のままベッドにけだるそうに座っていた。
「勝手に上がってごめん」
「好きにすれば。なんか用かよ」
「……さっきの子、二組の子だよね。付き合ってるの?」
「そんなんじゃない。ちょっと試しにヤッてみただけ。ああ、無理強いじゃないからな」
「あの……そのことなんだけど」
「それより、喉が渇いたんだよ。ちょっと待ってろ」
達也を通り過ぎて、圭介はキッチンへ向かった。どうすればいいのか分からず、達也は部屋に入って軽くベッドのシーツを整えた。戻って来た圭介が呆れて言う。
「普通さぁ、他人がヤッたあとのベッドなんか片付けたくもないし近付きたくもねぇだろ」
「片付けたいわけでも近付きたいわけでもないよ。それより」
ホットレモネードを差し出された。蜂蜜とレモンの香りが微かに湯気に乗って鼻に届く。マグカップを受け取った達也はそのままベッドに腰を下ろして飲んだ。冷えた体が温まる。ああ、そうだ、この味だ、と懐かしくなった。
「『それより』なんだよ」
「あの、女の子と付き合うのはいいんだけど、とっかえひっかえするのはどうかと思うよ」
「そういうのに拘らない奴を選んでんだぜ」
「でもさ、そ、そういうことは……ちゃんと好きになった子としたほうが……」
「そういうことってエッチのこと?」
あからさまな言葉に顔を赤くして俯いた。一応の知識はあるが達也にとっては未知の領域だ。
「け、圭介ってそういう奴だっけ……。どっちかというと興味ないのかと思ってた」
「そりゃお前の勝手なイメージだ。普通にエロ動画も見るしヤリてぇしな」
「サッカーは? 行ってないんじゃない?」
あれだけ熱心に続けているサッカーだ。部屋にはサッカー用品がそこら中にあるのだろうと想像していたが、意外にもそういった物は一切見当たらない。代わりに勉強机の隅にサポーターとテーピングがあった。
「何かあったの?」
「達也には関係ない」
「でも僕は圭介がサッカーしてる姿を見るのが好きなんだ。圭介が楽しそうにクラブに向かう姿をみると嬉しくなった。それなのに急にクラブにも行かなくなって女子と遊んでばかりで。正直見たくないよ、そんなの」
「知った風に言うな。お前に何が分かるんだよ。いっつもひとりで陰気げにしてる奴が偉そうに」
「……知らないから……わけを聞きに来たんじゃないか」
「別に悩み事を相談しあうような仲じゃないだろ、俺ら」
それは達也も昔から理解している。そもそも「友人」と言える関係かどうかも怪しい。
「……僕は圭介と……仲良くなりたい、から」
自分でもあまりに幼稚すぎる願望に呆れる。口にしてから恥ずかしくなった。レモネードのカップを持つ手が震えている。暫くの沈黙のあと、圭介が達也のカップを取った。
「そういうのは今頃言われても困るんだよ」
「……」
「左膝の靭帯を痛めただけだ。すぐ病院に行ったし、サポーターとテーピングでかなり回復した。でも怪我をしてから試合に出してくれなくなった」
「それはでも……怪我してるからでしょ?」
「もともと俺は実力があるわけじゃねぇんだ。スタメン降ろされないように頑張ってただけだ。でも怪我をして他の奴に取られたら、もうそれきりだ」
「だって、せっかく続けてきたのに勿体ないよ。……サッカーだけは続けようよ」
「だから偉そうに言うなよ。今更出てきてなんなんだよ。今まで何も言ってこなかったくせに。……サッカーにやる気がなくなったら、急にハメを外してみたくてさ。俺、案外モテるんだよ」
得意げに笑うので「知ってる」と返した。
「なんでも良かったんだよ。気が紛れるなら」
圭介はまだ服を着ていない上半身をベッドに投げ出して横たわる。圭介は地黒だと思い込んでいたが、色が濃いのは露出している部分だけであって腹や胸は白かった。それでも逞しく思えるのは筋肉に包まれているからだろう。何を思ってか、達也は圭介の肌に触れた。自分にはない体つきが羨ましかったからだ。深い意味はない、ただの興味本位だった。だが、それが浅はかだった。圭介に手首を取られて簡単に組み敷かれた。両手首をがっちり握られていてびくともしない。
「な、なに」
「そっちが先に触ってきたんだろ?」
「勘違いしてない!? 僕は男だ!」
「本当に男かどうか見てやるよ、モヤシっ子」
カッとなって圭介の腹に蹴りを入れた。圭介が腹を抱えて隙を見せた瞬間に逃れようとしたが、すぐに背後を取られて床に押し倒された。無理やり振り向かされ、強引に唇を奪われる。首を振って抵抗するとかえって刺激したのか、顎を掴まれて舌を入れられた。
「……っ、やめて!」
「慰めに来たんだろ?」
「こういうことじゃない! 見境ないのかよ…っ、最低だ!」
「見境はあるぜ。俺は『男』を抱きたいわけじゃない。『お前』を抱きたいんだ」
「散々、女子とヤッてたくせに!」
「あいつらは、その場凌ぎだよ。でも結局凌げないから困ってたんだ。でも達也は違う」
「違うって!?」
「お前、俺のこと好きだろ」
ずばりと言われて動きが止まった。肯定したのと同じだ。目を泳がせてうろたえた。
「いっつも俺のこと見てるの、知ってるんだぜ。犬みたいな顔でさ。俺が女子といて悔しそうな眼ぇしてんの、すげぇ面白いわ」
「さ、最低」
うすうす気付いてはいても自分では認めたくないことだった。恋じゃない、友情なんだと思い込んでいたかった。それを本人にはっきり断言されて返す言葉もなかった。
「からかってるんじゃないぜ。こう見えても喜んでんだ」
「う、嘘だ。気持ち悪いなら、はっきり言えばいいじゃないか。もう来るなって言ってよ」
「俺の傍にいろ」
まっすぐ視線が絡み合う。圭介の顔つきは本気だった。
「お前がいてくれるんなら、もう女としない」
「なんで……僕なの」
「俺だって本当は仲良くなりたかったよ」
今度は触れるだけのキスをされた。首に移動して、制服の第一ボタンとワイシャツのボタンをこじ開けて胸元にも唇が落ちる。
「僕は……男だよ」
「知ってるよ」
「胸もないよ」
「見りゃ分かる。白いな」
いつの間にボタンを解いたのか、前をすべて開け放された。さらした胸の先を軽くつままれて、肩をすくめた。他人に触れられることがこんなに恥ずかしくて気持ちいいのかと混乱する。脱げ、と言われて戸惑いながら脱いた。圭介はそのあいだにズボンと下着を脱ぎ捨て、堂々を達也に体を見せつける。目のやり場に困る。下着一枚だけになった時、圭介はすぐさまベッドに倒し、達也の下着を取った。無理やり足をこじ開けて達也を口に含む。
「ぅわ! やだ! やめてよ!」
「これが気持ちいいって知ったら、俺から離れなくなるだろ」
「やめて……あっ……そんなしないで……」
舐めつくされて、すぐに硬くなった。下半身がむず痒い感覚が正しい判断を鈍らせる。
「お前もやれ」
「な、何を」
「俺と同じことだよ。そっちに後ろ向けるから、俺の舐めろ」
「え!?」
「早くしろよ、じゃねぇと俺もすぐ出ちまうだろ」
膝立ちした圭介の下半身に目をやると、怯えるくらいに反り返っていた。本当はまだ覚悟も勇気もなかった。キスどころか手も繋いだことのないような初心な彼が、いきなり他人の性器を口に含むなんて考えられなかった。けれども、拒めば圭介とは永遠に話もできなくなる気がする。圭介は達也の顔を跨ぐと口に自身を押し入れた。驚きで思わず舌で押し返そうとしてしまう。圭介も多少気詰まりがあるのか、無理に進めはしない。少しずつ迎え入れ、時間をかけて根本まで含む。そればかりに集中しすぎて圭介が態勢を変えたことに気付かなかった。ふいに下半身に温かみを感じて口を離した。
「続けろ」
そう言われても間近で秘部を見られていることと、それを咥えられていると考えるだけで集中できない。しかもざわざわ襲ってくる快感が筋肉を緩ませる。
「ふぅ……う、……出、ちゃ……っ」
「しょうがねぇな、初心者。いったんイカせてやる」
圭介は先端だけ咥え、一気に扱いた。既に限界寸前だった達也は、あっけなく達してしまった。
「よかったろ?」
「……」
「気持ちよかった、だろ?」
「……う、ん」
「忘れるなよ。俺といたら気持ちいいこと、いっぱいしてやる」
「でもどうせ……女の子とも、するんでしょ」
「しない。達也以外とはしない。だから今度からお前が俺を慰めろよ」
「……サッカー、やめない?」
「……ああ、やめない」
「約束だよ」
―――
ゆっくり腰を落として、圭介を体内に取り込んだ。何度してもこの瞬間だけは若干の恐怖が残る。沈みきると深く息を吐いた。
「あったけぇな」
「……圭介のも熱いよ」
セックスはいつも圭介の指示通りに、達也が動く。正直に言うと肉体的にきついこともある。圭介は体力がある分、限界までが長い。早く達してくれと願うこともしばしばだ。それでも圭介を自分の手で気持ち良くできていると思えば耐えられた。
「もっと……動けよ」
「うっ……ぁ、はあ、はぁ……」
「きついか」
「だい、じょぶ……。圭介は……? 気持ちいい?」
「ああ、いいよ。すげぇいいよ」
「……よかった」
圭介は上半身を起こして、達也を抱き締めた。唇に噛みつき、耳から鎖骨にかけて舌を往復させ、胸に吸い付く。達也は圭介の長い黒髪を鷲掴みにした。
「あっ、あ、圭介っ」
「達也、ずっと俺のものでいろよ」
「……ん、圭介も……」
「分かってるよ。もうお前だけだ」
「約束だよ……」
達也は圭介より先に限界を超えた。
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