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瞬の挑戦3

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 年内最後の定期健診を受けに病院を訪れた瞬は、いつも通りに検査をおこなった。採血と検尿、レントゲン、今回は心臓エコー検査も含まれている。少し長引いて検査を終えて、診察室で父と向き合った。

「結果は年明けに分かるかな。どうだ、寒いけど、体調は」

「すこぶる良いです」

 予想外の返事に父は驚いた。確かに顔色は良いし、きりっとした眼光は今まで見た中で一番鋭いように見える。

「けど、そういう時が一番油断しがちなんだ。調子が良くても引き続き精進するように」

 いつもなら無駄話をせずに早々と立ち去る瞬が、話が終わっても席を立たないので父は訝しんだ。

「……どうした」

「ひとつ、お願いがありまして」

「……お願い?」

「来月の十五日、一時に商店街のヤマイに来てもらえませんか」

「何か、あるのか」

 店頭コンサートのことを今話したら、間違いなく止められることは分かっていた。せっかく岬を説得できたのに、こんなところで邪魔をされたくない。

「見てもらいたいものがあるんです。……父さんに」

 瞬に「父さん」と呼ばれたのはいつぶりかと、二度目の意外な展開に父はただただ目を丸くした。

「当日、来てくれたら分かりますから。父親として、主治医として、見て欲しいんです」

 詳細は言わずに「来てくれ」とだけ訴えるのが、父は瞬の体にとってはあまり良くないことであろうと嫌な予感はあったが、それ以上の興味と誘いへの喜びには勝てなかった。父は了承して、瞬はそれに安堵すると席を立った。

「瞬が、そこで何かをするのか?」

 駄目元で聞いた父の質問に、瞬は不敵な笑みで答えた。

「肝試しですよ」

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