瞬の挑戦1【R】
この地に戻って主治医が父に代わってから、瞬は特に体の不調を感じることなく過ごしている。これまで病気が発覚した際と母の死後の二度、軽い心不全で入院しただけで、すぐに外科的治療が必要なわけではない。
別に父の腕が良いという話ではなく、単に処方される薬が自分に合っていて、日常生活で注意すべきことはきちんと守っている努力の成果だと、瞬は思っている。
とはいえ、やはり自身の体に対する不安は拭えない。上手く病気と付き合えば見た目は健常者となんら変わりはないが、一般的に予後不良と言われ、数年前までは生存率も極めて低かった病だ。現在は医療と研究の進歩もあり、心機能の回復は見込めるとされているけれど、それでも他の人間より死は身近なものだ。調子が良くてつい油断しがちな時は、あえて自分の病気について調べて気を引き締めることで、生活を保った。
岬の父の死は、改めて自分の境遇を思い知るひとつの機会だったと言ってもいい。死を直前にした人間の眼、体温、周囲の反応。決して他人事ではない。十年先なのか、二年先なのか、来年なのか、もしかしたら明日なのか。そのうち自分にも訪れるこの場面には、できれば岬にいて欲しいと思った。手を握り、汗を拭いて、意識がなくなるまで声を掛けて欲しい。それを叶えられた岬の父は、理想の死に様だった。
仕事納めを迎えた年末に岬がマンションを訪ねて来た。父の死を引き摺る様子もなく、変わらず元気だと笑った。
「だいぶ落ち着いたのか」
「まあね。まだ全部は終わってないんだけど、とりあえず一段落したかな」
「年末なのに、お袋さんと一緒にいなくていいのか?」
「子どもじゃあるまいし、いいよ。年越しくらいは家にいる予定だけどさ」
岬はダウンジャケットを脱いでソファに寝転んだ。クッションを抱いてまどろんでいる。
色々と気を張っていたのが緩んだのだろう。遠慮なく瞬の家でくつろぐ図々しい姿さえ愛しいと思う。瞬は横になっている岬を覆い、キスをする。まだ体が温まっていないからなのか、冷気を感じた。唇を舌でつつくと、岬はゆっくり口を開ける。重ね合ううちに、岬の顔が温まるのが分かった。吐息が荒くなるまでキスを続ける。積極的に舌を絡ませてくるが、息苦しいのか唇は離れようとする。瞬はわざと岬の後頭部を引き寄せて、無理やりに密着させた。
「……んぅ……っ、はぁ……」
「おい、しがみつくもの間違ってるだろ。邪魔なの、退けろ」
抱き締めているクッションを引き離すと、岬は身震いをした。
「……寒い」
「じゃあ、どうすればいいと思う」
意地悪く聞くと、岬は頬を赤くして瞬の首に両腕をまわした。ゆっくり顔を近付け、鼻がぶつかりそうになったところで、また強くキスをした。唾液を交換しながら岬のトレーナーの下へ両手を潜らせ、焦らさずに胸の先端を目指す。指でくっと押しただけで立ち上がり、それを撫でたりつまんだりを繰り返した。岬の口から甘いよがり声が洩れるが、唇を塞がれているので思うような喘ぎにはならず、その代わりに息遣いだけが熱を帯びてくる。そろそろ舌で愛撫してやりたいところだが、瞬はまだ唇を合わせていたかった。というのも、快楽に支配されていく岬の呼吸を、キスをすることで身近に感じて、それにたまらなく興奮するからだ。片手を滑らせ、下腹に近付くと岬の体が僅かに跳ねる。ベルトを外す音すら官能的に聞こえる自分はおかしいのかもしれない。ジーンズをおろし、紅潮して蜜を溢れさせるそこが露わになると、岬はますます顔を赤くして目を窄めた。
肌を合わせるのは三度目なのに、反応はいちいち敏感だ。頼りなくて馬鹿みたいでどうしようもなく可愛い。岬のものを柔らかく包み、手を動かすとそれだけで岬は体を震わせて必死に耐えた。顔を隠すものがないと不安なのか、襟もとを握り締めている。
岬は表皮が薄いので力を入れると痛がる。優しくゆっくりするのが一番の按排なのだ。ただ、それだけでは中々なので、時々先端の窪みや裏筋を強めに撫でてやる。どんどんと溢れる先走りが瞬の指を伝い、それがやけに淫靡だった。
「は……ぁ、……で、そう……」
「まだ早いぜ」
いったん手を止め、今度は蕾に指をねじ込ませると岬は背中を丸めた。
「力、抜いて」
「あ……あ……や、やだ」
「……今日は控えめだな。このあいだは、積極的だったのに」
「言わないで……あぁっ――」
敏感なところに当たると岬の膝が震えた。息を切らせて眼が潤んでくる。もっと悶える姿が見たくて、瞬は岬の上半身を起こすと肩を抱き寄せ、再び岬の弱いところを刺激した。
「はぁっ……あっ、ん……っ、だめっ、そこ……だめ……」
「気持ち良いって言えよ」
耳まで真っ赤にして涙を浮かべて、全身で性感を得ているはずなのに、羞恥心が邪魔をするのか率直に口に出さない。体だけじゃなく、言葉でも求めさせたい、と思うと、同時にあの歪んだ愛情に支配される。目の前で、自分がすることで、こんなに取り乱している岬が愛しくてたまらない。
もっと追い詰めたい、泣かしたい、壊してやりたい、奪いたい、「全部」。
岬をうつぶせにさせると、腰を浮かせて上半身をソファに押し付けた。岬は秘部を瞬に向ける形となり、困惑している。恥じらう岬に構わず瞬は自身を食い込ませた。
「――あっ……!? ま、待って、しゅ……っ、あっ、」
締め付けに、瞬もいとも簡単に快感の渦に巻き込まれた。岬の嬌声はすぐそこで聞こえるようで、遠くに感じる。栗色の髪も、白いうなじも、汗ばんだ背中も、全部が欲しかった。気を抜いたらすぐにでも限界を超えそうだが、まだ果てるには惜しく、一度抜いては指を押し込んだり、そして再び繋がったりを繰り返す。自分に理性がほとんど残っていなくても、岬の弱点を攻めることは忘れない。
「んんぁ……瞬っ……も、いきたいっ」
「……っ、岬……、まだ……」
激しく揺さぶりながら、首に吸い付いた。無意識なのか背後から回した手は岬の胸を必死に弄っている。
何かを探しているような手つきに、岬はそのわけに気付くと悲しくもなり、嬉しくもなり、哀れにもなり、それでも襲い掛かる快感に、その先をせがんだ。
「ふぅっ…うっ……んっ ん、いきたい……いかせ、て……」
それが決定打となり、瞬は深く挿し込むのと同時に岬自身を握った。
「瞬っ……あっ、ああぁ――……」
ほぼ同じくして頂に達する。岬の背中に、瞬の手の中に、受け止めきれないほどの熱が滴り落ちた。激しい息遣いをしながらソファに倒れ込む岬を見て、瞬はようやく我に返った。
「岬、……平気か? 俺……」
うつろな眼でゆっくり瞬に視線を送った岬は、力なく微笑んだ。
「……平気、……嬉しい」
猛烈な後悔が押し寄せて、瞬は岬を抱き締めて何度も「ごめん」と囁いた。
⇒
別に父の腕が良いという話ではなく、単に処方される薬が自分に合っていて、日常生活で注意すべきことはきちんと守っている努力の成果だと、瞬は思っている。
とはいえ、やはり自身の体に対する不安は拭えない。上手く病気と付き合えば見た目は健常者となんら変わりはないが、一般的に予後不良と言われ、数年前までは生存率も極めて低かった病だ。現在は医療と研究の進歩もあり、心機能の回復は見込めるとされているけれど、それでも他の人間より死は身近なものだ。調子が良くてつい油断しがちな時は、あえて自分の病気について調べて気を引き締めることで、生活を保った。
岬の父の死は、改めて自分の境遇を思い知るひとつの機会だったと言ってもいい。死を直前にした人間の眼、体温、周囲の反応。決して他人事ではない。十年先なのか、二年先なのか、来年なのか、もしかしたら明日なのか。そのうち自分にも訪れるこの場面には、できれば岬にいて欲しいと思った。手を握り、汗を拭いて、意識がなくなるまで声を掛けて欲しい。それを叶えられた岬の父は、理想の死に様だった。
仕事納めを迎えた年末に岬がマンションを訪ねて来た。父の死を引き摺る様子もなく、変わらず元気だと笑った。
「だいぶ落ち着いたのか」
「まあね。まだ全部は終わってないんだけど、とりあえず一段落したかな」
「年末なのに、お袋さんと一緒にいなくていいのか?」
「子どもじゃあるまいし、いいよ。年越しくらいは家にいる予定だけどさ」
岬はダウンジャケットを脱いでソファに寝転んだ。クッションを抱いてまどろんでいる。
色々と気を張っていたのが緩んだのだろう。遠慮なく瞬の家でくつろぐ図々しい姿さえ愛しいと思う。瞬は横になっている岬を覆い、キスをする。まだ体が温まっていないからなのか、冷気を感じた。唇を舌でつつくと、岬はゆっくり口を開ける。重ね合ううちに、岬の顔が温まるのが分かった。吐息が荒くなるまでキスを続ける。積極的に舌を絡ませてくるが、息苦しいのか唇は離れようとする。瞬はわざと岬の後頭部を引き寄せて、無理やりに密着させた。
「……んぅ……っ、はぁ……」
「おい、しがみつくもの間違ってるだろ。邪魔なの、退けろ」
抱き締めているクッションを引き離すと、岬は身震いをした。
「……寒い」
「じゃあ、どうすればいいと思う」
意地悪く聞くと、岬は頬を赤くして瞬の首に両腕をまわした。ゆっくり顔を近付け、鼻がぶつかりそうになったところで、また強くキスをした。唾液を交換しながら岬のトレーナーの下へ両手を潜らせ、焦らさずに胸の先端を目指す。指でくっと押しただけで立ち上がり、それを撫でたりつまんだりを繰り返した。岬の口から甘いよがり声が洩れるが、唇を塞がれているので思うような喘ぎにはならず、その代わりに息遣いだけが熱を帯びてくる。そろそろ舌で愛撫してやりたいところだが、瞬はまだ唇を合わせていたかった。というのも、快楽に支配されていく岬の呼吸を、キスをすることで身近に感じて、それにたまらなく興奮するからだ。片手を滑らせ、下腹に近付くと岬の体が僅かに跳ねる。ベルトを外す音すら官能的に聞こえる自分はおかしいのかもしれない。ジーンズをおろし、紅潮して蜜を溢れさせるそこが露わになると、岬はますます顔を赤くして目を窄めた。
肌を合わせるのは三度目なのに、反応はいちいち敏感だ。頼りなくて馬鹿みたいでどうしようもなく可愛い。岬のものを柔らかく包み、手を動かすとそれだけで岬は体を震わせて必死に耐えた。顔を隠すものがないと不安なのか、襟もとを握り締めている。
岬は表皮が薄いので力を入れると痛がる。優しくゆっくりするのが一番の按排なのだ。ただ、それだけでは中々なので、時々先端の窪みや裏筋を強めに撫でてやる。どんどんと溢れる先走りが瞬の指を伝い、それがやけに淫靡だった。
「は……ぁ、……で、そう……」
「まだ早いぜ」
いったん手を止め、今度は蕾に指をねじ込ませると岬は背中を丸めた。
「力、抜いて」
「あ……あ……や、やだ」
「……今日は控えめだな。このあいだは、積極的だったのに」
「言わないで……あぁっ――」
敏感なところに当たると岬の膝が震えた。息を切らせて眼が潤んでくる。もっと悶える姿が見たくて、瞬は岬の上半身を起こすと肩を抱き寄せ、再び岬の弱いところを刺激した。
「はぁっ……あっ、ん……っ、だめっ、そこ……だめ……」
「気持ち良いって言えよ」
耳まで真っ赤にして涙を浮かべて、全身で性感を得ているはずなのに、羞恥心が邪魔をするのか率直に口に出さない。体だけじゃなく、言葉でも求めさせたい、と思うと、同時にあの歪んだ愛情に支配される。目の前で、自分がすることで、こんなに取り乱している岬が愛しくてたまらない。
もっと追い詰めたい、泣かしたい、壊してやりたい、奪いたい、「全部」。
岬をうつぶせにさせると、腰を浮かせて上半身をソファに押し付けた。岬は秘部を瞬に向ける形となり、困惑している。恥じらう岬に構わず瞬は自身を食い込ませた。
「――あっ……!? ま、待って、しゅ……っ、あっ、」
締め付けに、瞬もいとも簡単に快感の渦に巻き込まれた。岬の嬌声はすぐそこで聞こえるようで、遠くに感じる。栗色の髪も、白いうなじも、汗ばんだ背中も、全部が欲しかった。気を抜いたらすぐにでも限界を超えそうだが、まだ果てるには惜しく、一度抜いては指を押し込んだり、そして再び繋がったりを繰り返す。自分に理性がほとんど残っていなくても、岬の弱点を攻めることは忘れない。
「んんぁ……瞬っ……も、いきたいっ」
「……っ、岬……、まだ……」
激しく揺さぶりながら、首に吸い付いた。無意識なのか背後から回した手は岬の胸を必死に弄っている。
何かを探しているような手つきに、岬はそのわけに気付くと悲しくもなり、嬉しくもなり、哀れにもなり、それでも襲い掛かる快感に、その先をせがんだ。
「ふぅっ…うっ……んっ ん、いきたい……いかせ、て……」
それが決定打となり、瞬は深く挿し込むのと同時に岬自身を握った。
「瞬っ……あっ、ああぁ――……」
ほぼ同じくして頂に達する。岬の背中に、瞬の手の中に、受け止めきれないほどの熱が滴り落ちた。激しい息遣いをしながらソファに倒れ込む岬を見て、瞬はようやく我に返った。
「岬、……平気か? 俺……」
うつろな眼でゆっくり瞬に視線を送った岬は、力なく微笑んだ。
「……平気、……嬉しい」
猛烈な後悔が押し寄せて、瞬は岬を抱き締めて何度も「ごめん」と囁いた。
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