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archive: 2022年05月  1/1

第一部 1-4

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 掃除用具の点検が終わってチェックシートを委員長に提出したら、もう解散していいと言われた。大川さんはもうドーナツのことしか頭にないらしく、軽快な足取りで帰っていった。中身がどこか子どもっぽいところは、やっぱり理沙に似ている気がする。その点俺はどうせ用事はない。のんびり帰ろうと遅れて校舎を出たら、校門で大智に出くわした。「大智!? なにしてんの。理沙との約束は?」「もう解散したから。まだ残ってるかと思...

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第一部 1-3

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 ――― 高校三年の冬になると周りは受験を控えてどことなくピリピリしている。俺も一応受験生ではあるけれど、正直言って何がなんでも進学したいわけじゃないので気楽に構えている。「受かればいいな」という程度でしかない。というのも、つい夏まで高校を卒業したら就職しようと漠然と考えていたからだ。俺の家は父子家庭なので、親父が男手一つで俺と理沙を育ててくれた。仕事をしながらの慣れない家事は大変だったと思う。だか...

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第一部 1-2

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 *** アラームが鳴ったことに気付かず寝坊した。いつもより二十分遅く起きて、慌てて制服に着替えて顔を洗う。親父はもう仕事に出たらしく、ダイニングテーブルには冷え切ったトーストと目玉焼きが置かれてあり、俺はトーストだけを口の中に押し込んだ。玄関先から双子の妹の理沙が「遅れるよ!」と叫んだ。起こしてくれてもよかったのに。 バタバタと支度をして外に出たら、門の前で大智が待っていた。「また寝坊かよ、昇(...

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第一部 1-1 

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 小さな文具店にノートを買いに来ただけだった。一冊だけさっさと買えば済むはずだったのに、ふと視界に入った消しゴムに悪戯心が働いた。別に消しゴムが欲しかったわけじゃない。金が足りないわけでもない。それなのに一度抱いた悪意に近い好奇心は抑えることができなかった。 ――一度だけ。どうせ誰も見てないんだ。一つくらいなくなっても気付かないはずだ。 手が震えているのはきっと罪悪感。それでも俺はその震える手で消し...

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