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archive: 2021年12月  1/1

高橋 恵一 8

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 *** 毎朝決まった時間に起きて、身支度を整えて出勤し、昼はその辺で適当に済ませて、大体夕方六時から夜の八時のあいだに帰宅するのが毎日のルーティーンだ。 生まれてこのかた家事などしたことがないので、掃除も炊事もほとんどしない。週末にたまに掃除機をかけて、もやしやら豚肉やらを炒めただけの簡単な料理をするくらいだ。自分がやってみて初めて、家事をしてくれる人の存在がいかに有難く偉大なものなのかを知った...

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高橋 恵一 7

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 最後に会ったあの冬の日から二度と会うことはないと思ったし、会いたくもなかった。離婚して暫くは独りの夜に慣れずに山城を憎らしく思ったこともあったが、日にちが経つにつれて彼のことは忘れていった。そろそろ趣味でも見つけて前に進もうかという頃に、再会したのだった。 一度目は喫茶アネモネの近く。出張先から会社に戻る途中でいきなり腕を掴まれて引き留められた。俺が彼に会いたくなかったように、彼も俺に会いたくな...

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山城 天 6

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 *** 恵一さんから正式に依頼が来たのは翌日のことだった。紹介されたのは木下さんという俺とそう歳の変わらない若い夫婦だ。挙式をするのはまだ先なので本格的な打ち合わせは未定だが、花屋を見てみたいからと一週間後に店に来ることになっている。恵一さんはその日は来ないけれど、「母の日のアレンジメントはまだ間に合うか」と電話で聞かれた。「間に合いますよ。予算はありますか?」『なるべく華やかにしてほしい。金額...

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山城 天 5

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 *** 恵一さんから受けた忠告など忘れて、俺は相変わらず仕事と気ままな恋愛に明け暮れていた。「聞いてよ、天。わたし浮気なんかしてないのに、彼氏ってば信じてくれないのよ」 こちらが仕事中であるにも関わらず、店に来た女友達に愚痴を聞かされる。友達、といっても一応、客だ。店に通ってくれるうちに親しくなった。正直、接客中は控えてもらいたいが、常連を無碍にもできない。接客の合間に「そうか、そうか」と彼女の...

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