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archive: 2020年05月  1/1

カルマの旋律10-1

秀一が目を覚ました時、どうして自分が病院のベッドで寝かされているのか暫く理解できなかった。確か本屋で立ち読みをしていて、いきなり神崎が走って来たと思ったら背後から強烈な破壊音とともにプッツリ意識が途切れた。見る限り大きな怪我はなさそうだが、手や顔にところどころテープが貼られている。一緒にいたはずの神崎の姿が見えず、ベッドから降りようとしたところに看護師が現れた。「気が付きました?」 以前、バイク事...

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カルマの旋律9-3

 *** 一度戻りかけた体重がまた落ちて、なにかと体調を崩しがちだった秀一は、少しずつ外出を増やして崩れた生活習慣を改善させていった。神崎は一日のほとんどは留守なので日中の秀一がどう過ごしているかは知らない。多田の話によると、朝は周辺を歩いて運動したり、ハローワークへ通っているという。食事の準備は意外にも多田と秀一がふたりですると言った。もともと営業職の秀一は弁がたつので多田との会話も弾むらしく「...

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カルマの旋律9-2

「佐久間!!」 けれども秀一は片足を浮かせ、何もないその向こうへ進もうとする。体が傾きかけたところを、腕を掴んで引き戻し、勢いで一緒に倒れ込んだ。神崎に覆い被さる秀一の頭を抱える。顔は熱いが、手足は氷のように冷たい。ふと見渡すと空になった酒の缶や瓶が転がっていた。一体、いつからここにいたのか。あと少し遅ければ秀一は落下していただろう。ハルカが飛び降りたあの瞬間をまざまざと思い出し、心臓がバクバク音を...

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カルマの旋律9-1

 院内は禁煙だと言ってあるのに煙草に火をつけようとする志摩を、神崎は快く思わないながらも止めなかった。呼び出したのは自分だからだ。理由もなく仕事をする気になれず、医院は午前中で閉めてしまった。志摩を呼ぶのは夜にするつもりだった。メッセージをいれておいたら「今から行く」と返事があった。いきなり仕事を抜け出していいのかと聞いたら、いきなり医院を閉めるお前に言われたくないと返される。「やる気がねぇ医者だ...

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カルマの旋律8-4

 神崎は結局、日付を過ぎても帰って来なかった。多田が用意した食事はすっかり冷えていたが、捨てるのも気が引けるのでそのままにしてある。秀一は自室で、ひとり先にベッドに入った。なかなか寝付けないまま時間だけが過ぎ、そろそろ丑三つ時に差し掛かろうとした時、――部屋のドアがゆっくり軋みながら開いた。 足音が近づいてくる。秀一は目を瞑って寝たフリをした。緊張で心臓が激しく揺れている。すぐ傍で足は止まったが、何...

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カルマの旋律8-3

 ―――「佐久間さーん、包帯取りますね」 今回の手術も、経過をじっくり見たいからと言われて一ヵ月入院した。もちろん、鏡はない。入院中に神崎が診察に来たのは数回で、あとは看護師が面倒を見てくれた。包帯を取る日も神崎はいなかった。「あ、佐久間さん、これ神崎先生からです」 と、茶色の封筒を渡された。医院名が入った封筒なので、どうせ同意書か何かの類だろうと思い、いったん隅に置いた。包帯を解かれ、手鏡を渡され...

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