archive: 2020年03月 1/1
カルマの旋律6-4
*** トップの成績で入試に合格した神崎は、入学式で新入生代表として堂々と檀上に上がっていた。長い手足とまっすぐ伸びた背筋。切れ長の頼もしい眼は確固たる自信に満ち溢れていた。誰もが振り返り、誰もが見上げるような、そんな独特なオーラを放っていたため、神崎は入学してすぐから注目の的だった。 女子を中心に神崎に近付きたがる人間は多かったが、神崎は見た目を裏切らず素っ気ない態度で周囲を遠ざけた。望みがな...
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カルマの旋律6-3
*** 根拠のない希望が絶たれた気がして、八方塞がりになった秀一はとうとう友人である川村に打ち明けることにした。川村とは以前、アパートに訪ねてきてくれたのをインターホン越しに追い返してから連絡をしていない。今更会ってくれないかもしれないと不安もあったが、川村はひと言も責めずに秀一の誘いに応じてくれた。 川村の仕事が終わった午後八時頃に、個室のある居酒屋で待ち合わせた。約束の時間よりニ十分ほど遅れ...
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カルマの旋律6-2
風は強いが天気は良い日だった。日なたに出ると久しぶりに浴びる日光に目を瞑った。キャップの下から空を見上げると、澄んだ青空が広がっている。こんなに晴れた休日に神崎と二人で出掛けるというのが苦痛だ。 連れて行かれたのはセレクトショップだった。ラグジュアリーなものばかりで、いつもの自分なら入らないような店だ。ぐるりと冷やかしてみたが、気に入るデザインのものはない。手持ちもあまりないので先に出ようとした...
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カルマの旋律6-1
相変わらず秀一は外に出られない日々を過ごした。朝はゆっくり寝たいと思っても神崎に叩き起こされて朝食を作り、神崎が仕事に出ているあいだに掃除や洗濯を済ませておく。買い物には滅多に出ない。いつも食材や日用品など必要なものは神崎が買っている。それも自ら買い出しに行くのではなく、ネットでひと通り注文しているようだった。旬の野菜、果物、肉、魚、そして赤ワインはほぼ必ず入っていた。どれも質の良さそうなものば...
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カルマの旋律5-4
*** 神崎の部屋は3LDKで、ちょうどひと部屋余っていたので、そこに秀一を住まわせることになった。秀一の部屋にはベッドと折り畳み式のローテーブルという、最低限の家具しかない。クローゼットにはまだ何もないが、アパートからじょじょに移すよう言ってある。 初めは反抗していた秀一だったが、彼も当分生きていくには神崎に従ったほうが賢明だと考えたのだろう。細かい指示にも文句は言わなくなった。じゃあ、彼がお...
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カルマの旋律5-3
「どけよ、変態!」「その変態につい先日、二度もイカされたのはどこのどいつだ」「俺を強姦して何が楽しいんだよ!」「心配するな、俺が抱くのは佐久間じゃない、栄田だ。お前はただ黙って従っていればいいだけだ」「この野郎……っ」 手首に血管と筋を浮かせて暴れようとする。けれども細すぎて簡単に押さえ付けられる程度の力でしかない。神崎は膝で秀一の両脚を封じ、首筋に噛みついた。「いぁッ……!」 歯型を付けた跡を舌で愛...
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カルマの旋律5-2
日が暮れた頃に治療を終えて、神崎と秀一は無言で歯科医院を出た。昼前までぐずついた天気だったのが回復して、紅色と紫色のグラデーションで彩られた西の空だった。代わりに肌に当たる風が冷たい。冬がすぐそこに来ていた。秀一は再びマフラーを巻き、キャップを深く被る。神崎はそれを見てまた溜息を放った。車内ではひたすら沈黙が続き、重苦しい空気を回避するためか狸寝入りを決め込む秀一の傍らで、神崎は氷の無表情のまま...
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