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archive: 2020年02月  1/2

カルマの旋律5-1

 週一の総合病院での勤務を終えて中庭に出たところで志摩に会った。滅多に人に会おうとしない彼が、珍しく自分から神崎を訪ねたのだ。ただの立ち話で終わるはずがないので、病院内にあるカフェテリアに誘った。「本当にやっちまったな」煙草を片手にコーヒーを飲みながら、志摩が言った。「歯が抜ける度にちょくちょく予約入れてたのに、最近めっきり来なくなっちゃってよ。一昨日、すごい久々に来たんだよ。けっこう抜けてんのに...

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カルマの旋律4-4

 ――― 神崎の家は嫌味なほど高級なマンションだった。ロビーでインターホンを押すと、名乗るまでもなく自動ドアが開かれ、最上階の角部屋へいざなわれた。マフラーで顔をぐるぐるに巻いてキャップを深く被って現れた秀一を、神崎は鼻で笑った。「どこの犯罪者かと思われるぞ」「こんな顔、人前に晒せるか」「せっかく綺麗な顔にしてやったのに」 マフラーとキャップの隙間から睨み付けた。 部屋に入って長いアプローチを進むと...

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カルマの旋律4-3

 *** 秀一は決して美青年とまではいかなかったが、奥二重で釣り気味の目は野性的で、鼻梁も通ったそれなりに整った顔立ちだった。睡眠不足になると奥二重がはっきりとした二重になって少し目が大きくなるところがいいと、かつて付き合っていた彼女に言われたことがある。じゃあ、プチ整形でもして二重になろうかと冗談で言ったら「たまに見るからいい」のだと拒まれた。そんなたいして自慢にもならない、とっくに忘れていた些...

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カルマの旋律4-2

 ***「こんにちは、今日はいかがされましたか?」「あの……。先月、こちらで入院していた佐久間と申します。再診を……お願いします」 あれだけ拒んでおいて、のこのこ神崎を訪ねる自分を何度も諫めた。こうして神崎形成外科クリニックに足を踏み入れただけで胃が引きちぎられそうに悔しい。けれども、もう体が限界だった。一応、他の総合病院や形成外科医院も調べてはみたが、やはり神崎の医院が一番評価が高かった。変な意地を...

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カルマの旋律4-1

 ある程度体力と気力が回復した秀一は、退院した翌日から仕事に復帰した。顔の傷は当然目立つままだが、会社の人間は事故にあったことを知っているので配慮はしてくれるだろうと、変に隠したりしなかった。出社してすぐから、すれ違う度に振り向かれ、眉をひそめる者もいれば深刻げに声を掛けてくる者もいる。直属の上司は「大変だったな」と気遣ってくれるが、視線はあからさまに傷にあり、物珍しさと気味悪さで引いているのが分か...

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カルマの旋律3-3

 ―――「くそ、結局俺が最後まで面倒見なきゃいけねぇじゃねぇか」 志摩は煙草に火をつけながら舌打ちをする。「そのつもりでアンタに頼んだんですよ」「言っとくが、俺は『治療』をしただけだぜ。お前の考えは知らねぇからな。なんかあった時に俺の名前出すんじゃねぇぞ」「分かってますよ。ありがとうございます。今後もよろしく頼みますよ」 そのあと暫くは看護師にこまめにバイタルチェックをしてもらい、神崎は深夜に秀一が...

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カルマの旋律3-2

 造影CTで肝臓と膵臓の損傷を確認した。肝左葉に二点の挫滅創があったが、出血は多くない。だが、血液や体液が腹腔内に漏れていたり、傷が壊死すると合併症を引き起こす可能性がある。骨折がひどいのは顔面だ。鼻骨骨折、頬骨は粉砕していて、下顎骨は見事に三分割されている。再建しても神経が損傷していれば後遺症が残るかもしれないし、正しい咬み合わせに戻すまでに更に長い時間がかかるだろう。 秀一と事故に遭った相手が...

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カルマの旋律3-1

 ハルカの死を受け入れられずに引き摺っているのは神崎も同じだった。初めて恋に落ちた相手で、遠くから眺めるだけの存在だった彼。今度こそ手に入れたいと思った矢先に、力が及ばずに永遠に手放してしまった。たかが佐久間秀一という男に振られただけであそこまで思い詰めるものなのか。自分では彼の不安と心細さを埋めてやることはできなかったのか。振り向かせるどころか、目の前で生を放棄したハルカを止めることすらできなか...

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カルマの旋律2-4

 *** 朝、出勤すると裏口の前で誰かが立っているのを見た。長い焦げ茶の髪の毛をひとつに縛り、フレームのないシンプルなデザインの眼鏡をかけている。長身で姿勢のいい、いるだけで絵になる男だった。近付いてその正体が分かると秀一は眉をひそめた。「……なんでここにいるんだよ、神崎」 秀一に気付いた神崎はそれまで保っていたクールな無表情を一変させて、みるみる顔を歪ませた。そして近付くと秀一の胸ぐらを掴む。秀一...

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カルマの旋律2-3

 *** 証券会社で営業の仕事をしている秀一は、朝から晩まで電話対応か外回りに追われている。昔から愛想は良く、口も上手いので営業力は高い。営業の仕事は嫌じゃなかった。よく意外だと言われるが、恋愛に関しては堕落していても仕事に対しては忍耐強くて真面目だ。入社して十年経ち、激務に耐えきれずに辞めていく同期が多い中、秀一は次々に資格を取得してキャリアを積んでいった。 昼休憩に入った時だった。朝から仕事に...

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