fc2ブログ

B-R-eath

ARCHIVE PAGE

archive: 2020年01月  1/1

カルマの旋律1-4

 佐久間が向かったのは独身者向けのアパートだった。女が先に共同階段を駆け上がっていく。階段の下でひとり残された佐久間に、神崎が先に近寄った。ふたりの存在にようやく気付いた佐久間は、浮かれた表情から一気に煩わしげな表情へ変えた。ただ、焦る様子は微塵もない。「こんなところで再会するとは思わなかったぜ、神崎」「俺もお前なんかと会いたくなかったさ」 佐久間の目尻がピクリと痙攣する。神崎の後ろで隠れるように...

  •  0
  •  closed

カルマの旋律1-3

No image

 *** ハルカと佐久間が付き合い始めたのは、皮肉にも神崎がハルカと再会した同窓会がきっかけだったらしい。立食式の会場で、ひとりでワインを飲んでいる時に話し掛けられたのだとか。神崎同様、ハルカと佐久間も高校時代は一切関わりがなかった。それなのに佐久間はハルカにこう声を掛けたという。『久しぶりだな、栄田。今でもピアノを弾いてるのか?』「すごく驚いた。だって一度も同じクラスになったことも話したこともな...

  •  0
  •  closed

カルマの旋律1-2

「どうぞ、入って」「……お邪魔します」 休診日の医院に上がることに気兼ねがあるのか、ハルカは肩をすくめて遠慮がちに靴を脱ぐ。入ってすぐの待合室から診察室へ進み、カウンセリング室、手術室を通り過ぎて、一番奥のスタッフルームへ通した。決して広くはない医院だが、すっきりと整頓されて片付いている。「いいのかな。スタッフだけの部屋でしょ?」「休診日だから誰もいない。そこのテーブル席に座って」「綺麗な病院だね」...

  •  0
  •  closed

カルマの旋律1-1

 フランツ・リスト作曲『愛の夢』第三番。神崎(かんざき)正臣(まさおみ)がこの曲の題名を知ったのは、彼が高校生の頃だった。放課後の音楽室から毎日のように聞こえる旋律が美しすぎて一瞬にして虜になった。曲に惹かれたのか、それとも弾いていた「彼」に惹かれたのか。どちらにせよ神崎の心はあの日、奪われた。 甘く切なく、壮大なメロディ。軽快ながらも重みのある指使いは、聴き手に愛を問いかける。鍵盤と指の融合。音のゆ...

  •  0
  •  closed