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archive: 2019年07月  1/2

ゆめうつつ 7

 決算が落ち着いて仕事も楽になるかと思ったが、今度は国税局が入るというのでまた忙しい日々になった。朝から晩まで会社に拘束されるのはうんざりするが、松岡からの誘いを断る言い訳にはできた。今度会ったまた流される。そもそも前回も会うべきじゃなかったのだ。 あの夜から何度か松岡から電話やメッセージが入ったが、メッセージは「忙しいから」と終わらせ、電話は取らないようにした。忙しさにかまけて拒み続けていたら、...

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ゆめうつつ 6

 ―—— 松岡からのメッセージは、週明けに仕事が終わったら会わないかというものだった。およそ三週間ぶりになる。司は今度こそ動揺すまいと決意して、松岡の誘いを受けた。 六時半に花時計の前で待ち合わせをしている。若者やカップルが多いこの場所で、スーツの男がひとりで立っているのは居心地が悪いが、初夏の黄昏時は好きだ。早めに待ち合わせ場所に着いた司は、ビルの向こうに見える夕焼けをぼんやり眺めながら待っていた...

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ゆめうつつ 5

 六月の中旬になって慌ただしく引っ越した。五十嵐がほとんど手配してくれたおかげで司は荷物を運ぶだけで済んだ。愛着のある部屋を出る寂しさと、いくら友人とはいえ他人と一緒に暮らすことに不安はあるが、成長しない自分を改めるにはいい機会かもしれなかった。 連絡をすると言っておきながら、松岡から電話が掛かってきたことはない。松岡はいつもそうだった。口では期待を持たせることを言っても、結局放置する。その度に松...

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ゆめうつつ 4

 *** 週明けの月曜日、昼休憩に入る直前で司に内線電話があった。受付から「来客がある」と言われた。来客の予定はなかったはずだけど、と不思議に思いながら相手が誰かと訊ねると、『M銀行の松岡様です』 急いでロビーに向かうと、入口の長椅子に座っている松岡の姿があった。「松岡……さん、お待たせしました」 立ち上がった松岡は相変わらず姿勢が良く、屈託ない笑顔で応える。年月が経ったせいもあり、社会人としての初...

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ゆめうつつ 3

 土曜日、五十嵐にほぼ無理やりに連れ出されて物件を探しに出かけた。正直、バーでは酒も入っていたこともあって冗談で終わるかと思っていたが、時間がある時に済ませたいからと珍しく積極的に動く五十嵐を見て、本気なのだなと腹を決めた。「実は、大体めぼしいのは見つけてあるんだよ。はい、これとこれとこれ」 ネットから印刷したものを渡される。どれもなかなか好条件のものだった。「司は譲れない条件とかある?」「駅近が...

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ゆめうつつ 2

 *** 翌朝、出社するなり会議に出るための資料をまとめた。財務本部に所属している司は、決算時は主力となって仕事をするので、経理関係の会議はほぼ出なければならない。先日決算を終えたところだが、会社の経営状況は芳しくない。昨年度に引き続き、今年度も経常赤字が出た。今日の会議の相手は取引銀行だ。どうせ色々と突かれるのだろうと、朝から溜息が止まらない。 早めに会議室に入ってペットボトルのお茶を並べている...

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【白日夢続編】ゆめうつつ 1

 六時に終業を知らせるチャイムが鳴ったが、まだ日は沈みきっていない。 自分の業務を終えて休憩室で缶コーヒーを飲んでいた司は、橙色の空を窓から眺めながら日が長くなったなと考えた。 ここ数日、仕事が忙しくて残業続きだったが、久しぶりに明るい時間帯に帰れる。チャイムが鳴り止むと空の缶をゴミ箱に入れ、デスクに戻った。 帰り支度をしていると上司の白川に声を掛けられた。明日の朝、急遽会議が入ったという連絡だ。...

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Ⅶ-4

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 大学を卒業して就職してからも、司は相変わらず神戸に住んでいる。学生時代に住んでいたアパートをそのまま契約しているため、普段の生活は変わり映えしない。せめて部屋の模様替えでもしたいと思うが、あまり金に余裕もないので出来ずにいる。 総合職の司は試用期間に営業を体験したのちに本社勤務となり、総務課に配属された。 入社してまず驚いたことは、入社式で小野田に再会したことだ。大会社なので採用する人数も多く、...

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Ⅶ-3

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 京町筋にある喫茶店で会うことになっている。迎えに行くと言われたが、断わった。 早めに店に着いた司は窓際の席を選び、外の景色や通行人を眺めながら松岡を待った。その日は朝から晴天で、薄手のTシャツ一枚で十分間に合う。日差しも空気の匂いも夏の訪れを感じさせ、懐かしいような気分になった。 コップの中の氷が溶け、カランと音を立てると、松岡が司の前に座った。「……事故で怪我はしてなかったか? 体の調子は」「俺...

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Ⅶ-2

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 昼過ぎに約束の公園へ着いた。前回と同じベンチに座って美央を待つことにする。ここ暫く雨が続いていたせいか、湿気を含んだ生温かい風が頬に当たる。木が揺れて葉が擦れる音に耳を傾けた。そのうちに風に混じって、湿った土の上を歩く足音が聞こえた。足音は司の横で止まり、同じくベンチに腰掛けた。つま先が泥で少し汚れた、茶色のブーツが視界に入った。美央だ。暫く二人は無言のまま前を見ていた。「怪我、もういいの?」「...

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