archive: 2019年05月 1/1
Ⅰ-5

***「ねえ、聞いてる?」 美央に不満げな表情で覗きこまれて、我に返った。急に店内の雑音が耳に入った。「あ、ごめん」「今日、ずっとボーッとしてるよね。何かあった?」「何もないけど」 美央はアイスコーヒーのグラスを取り、氷のカランという音とともに、細い指で支えながらストローを咥えた。機嫌を損ねている。「合宿はどうだったの」「それ、さっきも聞かれたわ。人の話、聞いてないのね」 機嫌を直すつもりで話題を...
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■お礼&拍手コメントお返事■
2019/05/30*しずな様*前回のコメントに続き、拍手でもコメント下さり、ありがとうございます!!嬉しいです!しずな様も体調を崩されないようにして下さいね^^これからも頑張ります☆*気付けば拍手総数が1000クラップを越えておりました…!ありがとうございます(*^^*)...
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Ⅰ-4
松岡に対する感情に気付いてしまった以上、今まで通りに接するわけにいかなかった。幸い、司の試合と松岡の定期テストが重なっていたのもあって、意図せずとも会う機会が減った。じょじょにフェードアウトすれば好きだという気持ちもなくなるだろうし、ただの勘違いだったということになるかもしれない。松岡からの誘いは変わらずあったが、何かと理由をつけて断るうちに連絡が減り、冬が終わる頃にはまったく音沙汰なかった。 ...
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Ⅰ-3

二度目に会ったのは間もなくだった。翌日、いつも通りに部活に出たあとのことだ。部室でトランプをしている部員たちの誘いを断ってひとり先に帰路に着いた。校門を出て自転車に跨った時、「笠原」 今しがた到着したと思われる松岡に声を掛けられた。「松岡先輩、どうしたんですか」「昨日、勉強見てやるって言っただろう」 それを思い出すのに少々時間がかかった。「……アレ本気なんですか」「俺は言ったことは守るんだ」 松岡の...
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Ⅰ-2

*** 中学一年の秋という遅れた時期にバスケ部に入った司は、入部当初、松岡の存在を知らなかった。二学年上の松岡は高校受験を控えており、その頃には引退していたからだ。 松岡を知ったのは中学二年の夏休みだ。再会した日と同じ蝉しぐれの猛暑日だった。 いつも夏休みは前半のうちに宿題を終わらせておくのが自分ルールだったが、バスケ部員として過ごす初めての夏は練習ばかりで机に向かう余裕がなく、部活の疲れに夏バ...
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Ⅰ-1

彼女の美央からふいにされた過去の恋愛についての質問は、司にとって答えにくいものだった。 美央とは高校三年の頃から付き合い始めて三年になる。彼女は司のプライベートには干渉しないし、嫉妬を剥き出しにすることもなく、それでいて司への愛情表現は忘れない、出来た彼女だった。過去の恋愛事情についてもこれまで一切聞かれたことがなく、興味がないのだろうと思っていたので「今までどんな人を好きになったの」と聞かれて...
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