archive: 2019年01月 1/8
追憶2【R】

およそ三年間、瞬の家に入り浸っていながら、岬は瞬の両親を見たことがなかった。母は瞬が朝、学校へ向かった頃に仕事を終え、午前中に睡眠を取り、瞬が帰宅する頃に仕事へ向かう。父は医療関係だと言った。瞬もよく分からないのだと、詳しくは聞かされていない。親の仕事が分からないとはどういうことだと思ったが、岬も父の仕事がどんなものか聞かれても「公務員」としか答えられないので、そんなものかと深く考えはしなかった...
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二度目の再会

「お父さん、どんな様子だった?」 味噌汁をテーブルに並べながら、母が聞いた。「んー……、あんまり食欲ないみたいだね。昨日は看護婦さんに車いすで中庭に散歩に連れてってもらったって。最近、足がひどく浮腫んでるんだって?」「リハビリをすればいいのに、お父さん、面倒くさがっちゃってしないのよ」 昨日、見舞った時にその浮腫んだ足を見た。普段の倍以上の太さになっていて岬も驚いた。確かにあれではリハビリどころか、...
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追憶 1‐Ⅱ

***「寝てるのか」 耳元で囁かれて、伏せていた頭を起こした。図書室で勉強していて、いつの間にか眠っていたらしい。窓の外に目を向けると、すっかり日が沈んで暗くなっていた。岬を起こしたのはクラスメイトの斎藤だった。「もう図書室閉まるって。お前、いっくら電話しても出ねぇし、ラインも返って来ねぇしよ」「……校内で電話は駄目だろ」「休み時間の度に、ちらちらスマホ気にしてる奴がよく言うぜ」「母親から連絡がある...
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追憶 1

岬がピアノを習い始めたのは六歳の時だった。近所にピアノ教室があるという理由だけで母に連れてこられた。音楽会社直営の教室ではなく、個人が運営する小さな教室である。 記憶のない幼児期から歌を歌ったり、おもちゃの楽器で遊ぶことが好きだった岬にとって、ピアノ教室は恰好の遊び場だった。練習を嫌がることもなく、出された課題曲を卒なくこなし、同等のレベルの生徒たちと藹々とぬるま湯のような空間で、ただ楽しく通っ...
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再会

ピアノの音が聞こえる。 ガブリエル・フォーレ作曲、ドリー組曲『子守歌』。 ――素敵な曲だろう? フォーレが、ドビュッシー夫人の娘のために書いたんだって。夢の中にいるような気分になるね。―― 当時、まだ小学生だった岬少年には曲の良さなど分からなかった。与えられた課題曲をただ楽譜通りに練習するだけだ。フォーレの『子守歌』は、発表会で連弾するための曲として岬の希望などおかまいなしに課せられたものだった。...
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GUILTY番外編3【R】

――― それから一週間、またもや菅野からの連絡はなく、相変わらず仕事にかまけたり島村と飲み歩いたりと色気のない日々を過ごした。あいつはあいつで知らないところで苦労している。そう思うと電話のひとつもないことに腹も立たなくなった。 そして午後十時頃に仕事を終えた金曜日の夜、唐突に思い立って菅野のマンションを訪ねた。インターホンを鳴らしても応答がないので、まだ帰っていないのだろう。俺はコンビニで買ってお...
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GUILTY番外編2
スマートフォンが震えて、走りながら確認する。菅野だった。『どこにいる』「取り込み中です。指名手配中の岩村の取引現場を見つけました」『どこで』「駅前。でも、取引相手に邪魔されて逃げられたんで、追ってます」 てっきり「また逃げられたのか」と罵声を浴びせられると思ったが、予想外の反応があった。『追わんでいい』「なんで!?」『岩村の件は本部で捜査中だ。本部が動くまで泳がせろ』「でも相手の男は凶器を所持して...
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GUILTY番外編1

久々に定時に仕事を終え、夕飯も摂らずに菅野のマンションへ直行した。あいつの部屋に行くのはおよそ一ヵ月ぶり。顔を見るのも一ヵ月ぶり。つまり、セックスも一ヵ月ぶりということだ。 仕事の忙しさにかまけて溜まりまくった性欲をどうにかしなければと思いながら、自慰すらまともにできず、こっちから呼びつけてやろうかと思った矢先、『ヤリてぇから、さっさと来い』 と、情緒も品もないメッセージが今朝、届いたのだった。...
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茶の攻防3

――野田の淹れた茶には続きがある。 野田が俺好みの茶を出してきた日、ずっと捕まらなかった強姦事件の被疑者を確保できた。だが、取り調べで被疑者が中々落ちなかった。俺は頑なに絶対否認する被疑者より、最初から罪を認める被疑者のほうが面倒だと考えている。案の定、その被疑者も投げやりな態度で適当な供述を繰り返し、経緯や動機がはっきりしないまま取調官を煩わせた。 証拠があっても、最初からそれをダシにして誘導尋...
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茶の攻防2

――― 車のサイドガラスをコココン、とせっかちにノックする音がして、目を開けた。微笑して車内を覗き込んでいる野田と目が合った。ロックを解き、助手席のドアが開かれると、野田は乗り込む前に背後を振り返り、一礼した。その先を覗き見ると、身なりを整えた中年の女性が立っている。女性が立ち去る姿を見送った野田が車に乗り込んだ。満足そうに微笑んだままシートベルトを締めた。「済んだのか」「はい」「いつ納骨したんだ...
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