category: ★きみの音 1/7
きみの音

(あらすじ)大学受験を控えた高校三年生の岬(みさき)は、勉強と末期の肺癌で入院している父の看病に追われている。ある日、病棟で聞こえたピアノの音色に魅了されてラウンジを覗くと、そこに居たのは四年前に姿を消したはずの幼馴染の瞬(しゅん)だった。 彼の持つ天才的なピアノの音色に強く惹かれていた岬は冷たくあしらわれながらも姿を消した理由を聞き出そうとするが、瞬が治療困難な心臓病であることを知り――。 生死を見...
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日溜まり【R】

日当たりの良い寝室で、洗剤の香りを残したシーツの上で、岬は夢を見ていた。瞬の家で『子守歌』の練習をしている夢である。拙い手つきで弾いている岬の隣で、瞬は穏やかな笑みを浮かべて座っている。 ――上手くなったかな。もう少し弱く弾いたほうがいいのかな。―― 岬の問いかけに、瞬はただ微笑を返すだけで何も言わない。その代わりに大きな手で頬に触れてくる。夢とは思えないほど温かい。瞬の顔が岬の耳元に近付き、囁く。...
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瞬の心臓4

*** 店頭コンサートでのことを母から何か言われるかと思ったが、母は瞬のことどころか、演奏についても何も触れてこなかった。怒っている様子も呆れている様子もなく、普段通りに岬に食事を用意して、日常生活での小言を言い、一緒に食事をしながら岬にとってはどうでもいい世間話を聞かされた。父の病室で喧嘩した時もそうだったが、母は揉め事があっても切り替えが早い。カッとなったかと思うと、数分後にはケロッと笑って...
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瞬の心臓3

*** ホールの中で演奏を終えて、鳴り止まない拍手の中、瞬は特等席に目をやる。特等席に座る人物はいつも決まっている。演奏を終えたあとは、岬が必ずその席で、大きな拍手を贈ってくれる。瞬はそれに応えて、微笑み返すのだ。 ――なんて最高なんだろう。 そんな夢を見ながら、遠くで誰かのすすり泣く声が聞こえた。 『もう泣かないよ』 ――泣いてるじゃないか。泣くなよ。 ……どこにいるんだよ。……手を、握ってくれ。...
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瞬の心臓2

診察室に連れて行かれ、岬は勧められた丸椅子に腰掛けて瞬の父に向き直った。父は電子カルテを開いて瞬の病歴をざっと確認するとフゥ、と息をついた。「瞬の病気のことは知ってるよね?」「……はい。治療が難しい心筋症って……」「そう。はっきりした原因は分からないんだ。そういうのを特発性って言うんだけどね。遺伝かもしれないし、過去にかかったウイルスの仕業かもしれない。はっきり言えるのは予後は悪く、内科的治療で進行...
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